【トヨタ23年7-9月期決算解説】ぶっちぎりの世界一の陰にあるわずかな死角

自動車業界の最新ニュース解説を発信するニュースレター、モビイマ!。今週からは「各自動車メーカーの23年7-9月期決算」を解説します。今回は日本が世界に誇るTOP自動車メーカー、トヨタ。新社長に変わって初めての四半期決算、その内容はいかに。
カッパッパ 2023.11.06
誰でも

2023年上期販売台数世界TOP、グローバルでシェアを伸ばし、海外を含め自動車メーカーの中では頭1つ抜けている、トヨタ。直近では相次いで電気自動車の技術、製造関連の発信を行い、電池への投資計画も発表されています。トヨタの動向は自動車業界のみならず、日本経済全体にも影響し、今後を占う重要な指標。グローバルでの生産が好調な一方で中国での苦戦も伝えられる23年上期。果たしてトヨタの決算の内容は?詳細に解説します。

1.テスラを超える営業利益率10.6%!四半期だけで営業利益1兆円

トヨタ 

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2023年上期売り上げは営業収益21兆9816億円(前期比+4兆2722億円)。そして営業利益2兆5592億円(前期比+1兆4178億円)。どちらも上期としては過去最高を記録。営業利益では日本企業で初めて半期で2兆円5000億円超えを達成する記録的な好業績となりました。営業利益率も11.6%と前期と比べ5.2ポイント上昇。ライバル、テスラと比較すると、23年7-9月期決算での営業利益率テスラ:7.6%に対し、トヨタ:12.6%。この四半期ではトヨタは5ポイントの差をつけて圧勝。他の自動車メーカーと比較してもとびぬけて高い営業利益を上げています。

今回、営業収益/営業利益が大きく伸びた要因は「営業面での努力」。具体的には、販売台数の増加や車種構成の改善(高Grへのシフト)、販売価格改定(値上げ)であり、上期だけで1兆2900億円の効果をあげています。インフレや原材料高騰に伴う自動車販売価格への転嫁、及び半導体供給不足の本格的な解消による生産/販売台数の伸びが好業績につながっています。輸出を主体とするトヨタは円安の恩恵を受けていることは間違いないのですが、その影響は1$=134円→141円のレート差でも2,600億円と今回増要因の18%に過ぎず、トヨタは為替に左右されずに儲けられる会社だと言えます。

ただ原材料高騰の影響は大きく、昨年と比較しても3,150億円のコストUP。得意の原価低減(2050億円)+諸経費低減を含めいかにカバーしていくかが今後もこの業績を続けるためのカギとなるでしょう。

上期の連結販売台数は415.9万台、トヨタ/レクサスブランドでは474.2万台、ダイハツや日野自動車を含めたグループ総販売台数では516.8万台。前年度と比較して+8.3%(グループ総販売台数)。他社と比較しても、販売台数は頭一つ抜けています。

そしてポイントは電動車が35.3%と全体の1/3を超える割合を占めていること。電動車の販売台数の伸びの多くを占めるのはHEV(169.5万台)。技術の積み重ねによって、低い原価で製造でき、性能も高い=競争力に優れるHEVが今回の好業績を牽引しているのは間違いありません。

所在地別の利益を見ると、伸びが著しいのは日本。これまでの決算をみると「所在地別」は車両の生産ベースでの利益を表していると見られ、日本での生産→海外への輸出がトヨタに大きな利益をもたらしています。ただ、他地域も全て黒字かつ他自動車メーカーと比較すれば高い営業利益率となっており、日本がずば抜けて良いだけで、他地域が「悪い」わけではありません。

そして苦境が伝えられる、中国では業績は悪化。販売面での影響(激しい価格競争による販売費増)で▲327億円。販売台数は何とか横ばいを維持し、前期比+0.3%。日系他社を含む中国で外資メーカーの販売が大きく落ち込む中で、トヨタは販売台数を維持、また利益も確保。中国でのブランド力の高さを示す結果となっています。

2.行くぜ!4兆5000億!

これまでの好調を受けて、23年通期見通しでの営業収益/営業利益を情報修正。通期営業利益見通し当初3兆円に対し、上期時点で2兆5592億円⇒進捗率85%で大幅過達。業績見通しを手堅く見積もることで有名なトヨタもさすがに見直すレベル(普通の企業なら4-6月期時点で情報修正している)。見直し後の営業収益は4兆3000億円、営業利益4兆5000億円(営業利益率10.5%)。どちらの数字もトヨタ、また日本企業として過去最高。自動車メーカーとしてだけでなく、製造業、世界で見ても突出した業績見通しとなっています。

今回の見直しの一番大きな要因は想定レートの変更。1$=125円⇒141円へ変更することにより+1兆1800億円。ただ実勢のレートは1$=150円ほどとなっており、今回の見直し後の数字も上振れする可能性は極めて高いでしょう。(上期ベースで計算すると+3000億はあり得る)。さらにトヨタの十八番「原価低減」で+1000億円、「営業面での努力」で+3700億円を積み上げ。このままのペースでいけば、日本企業初の営業利益4兆円超えは確実であり、いかに記録を伸ばせるかという段階に入りつつあります。

  一方で販売台数は連結販売台数通期960万台、グループ総販売台数1138万台は据え置き。台数が変わらないにも変わらず、営業収益、営業利益が大きく向上している→この上期でもトヨタの稼ぐ力が向上していることを意味しています。  

過去最高を次々と塗り替える、他メーカーと比べても白眉の出来。過去と比較しても類を見ない、販売台数、売上高、営業利益率、どれも自動車メーカーとして突出したトヨタ。その強さの所以はどこにあるのでしょうか。

3.三方ならぬ六方よしで成長するトヨタ

今回の決算発表では、「ステークホルダーの皆様と共に成長するサイクル」として、ここまで稼げるようになった要因が解説されました。トヨタは5つのステークホルダー「お客様/地域社会/従業員/仕入先/株主」との関係によって、これだけの価値を生み出す収益構造を確立してきました。

「バランスの取れたグローバル各地域の販売比率」「グローバルで1億台を超えて使用され、バリューチェーンでも稼げること」「収益とエコを両立したHEV」が事業基盤として確立されていることが現在の高収益体質を実現しています。更に「実需」に合わせた投資判断の見極め、具体的なEVシフトが進む中で各国の政策/インフラや実需に応じた「適切なタイミング」での投資判断が強固な財務基盤に繋がっています。

財務基盤の根底にあるのは自社、仕入先を含む努力の積み重ね。最終顧客であるお客様へ良いクルマを提供しようとする地道なカイゼンがトヨタを支えています。

そのなかでも、具体的な事例として紹介されたのがデジタル技術の現場導入。9月に有った「ものづくりワークショップ」でも紹介されていた現場×デジタルの融合により品質/生産性を向上させ、1つ1つの積み重ねが大きな効果を上げています。

また直近では24年問題が差し迫った物流も大きな課題の1つ。モノが止まれば、工場も稼働ができず、お客様にクルマを届けることもできません。トヨタが仕入先に部品を取りに行き、そのルートを最適化する「ミルクラン」/他社の戻り便を活用した「共同輸送」/海外送品の物流ルート見直しなど、ドライバー/船舶が不足する中で国内の生産台数が増に応えるため、物流効率化が進めされています。

紹介されている事例は一見すれば当たり前に見えるかもしれません。ただ当たり前に思えることに取り組み、カイゼンを積みあけ、継続していくことは簡単ではありません。トヨタの強さはクルマの魅力、その商品力の高さにありますが、それを支えるのは現場での1つ1つの小さな当たり前のカイゼンのをやり遂げる文化にあります。

4.ほんのわずかな残された死角

文句のつけようのない好決算であり、向かうところ敵なしに見えるトヨタ。ただトヨタも万事が上手くいっているかというとそんなことはありません。

各項目が上方修正される中で、BEVの販売見通しは通期見通し20.2万台から12.3万台へ下方修正。要因は中国販売減。この下方修正は23年段階でもBEV販売見通しが甘かった+中国でのBEV競争力が十分でない事実を示しています。これから26年150万台、30年350万台を実現するためには、一気に生産/販売台数を増やしていくことが不可欠です。今回のBEV販売台数下方修正は、現在掲げているBEV販売目標が簡単ではない、暗雲が立ち込めてきています。

加えて問題なのは子会社、販売店の不正問題。認証過程に問題のあり生産が止まっていたダイハツ製造の「ライズ(ロッキー)」のHEVは受注分が取り消しになったことが報道されています。またトヨタ車の販売店(ディーラー)が不適切な保険請求をしたことも相次いで発覚。トヨタ本体ではないものの。どちらも「トヨタ」の一部であり、トヨタ自身にもその責任が追及され、改善が求められていくこととなるでしょう。

また強いていうと今回の業績があまりにも好業績すぎることも今後の重荷になる可能性があります。圧倒的1位、ずば抜けた営業利益率を成し遂げ、これからも維持がし続けられるのか。他社と比較すれば良い決算と言えるとしても、今回の業績以下となれば「成長は止まった」「業績は下がっている」と批判される可能性はあります。

***

いくつかの懸念点はあるものの、業績単体で見れば同業他社、過去と比較しても間違いなく好業績となった23年上期トヨタの決算。現在のペースでいけば今期は過去最高間違いなしでどれだけ記録更新を成し遂げられるのかの段階にあります。トヨタは日本製造業の雄として、今後も自動車業界、日本経済全体を引っ張っていくことはできるのか。そして、BEVへのシフトが本格的に始まる25年以降も今の立ち位置を維持し続けられるのか。今期でどれだけ利益を積み上げられるのかとその先の戦略に注目です。

・トヨタやテスラなど自動車メーカー最新情報
・CASEなどの業界トレンドを詳細に解説
・各自動車メーカーの戦略や決算分析

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