【KGモーターズCEO くっすん氏インタビュー①】ミニマムモビリティが持つ半端ないポテンシャル
世界で加速するEVシフト。動力源が内燃機関からモーターへ変化することで参入障壁が下がり、アメリカ、中国を中心に次々とEVベンチャーが立ち上がっています。自動車メーカーとして時価総額世界一、販売を伸ばし続けるテスラやAmazonからの受注を受けているRivian、交換式電池で注目を集め、欧州やアジアにも進出を始めたNIO…世界で多様な新興EVメーカーが躍進を続ける中で、日本ではユニコーンと呼ばれる評価額が10億ドルを超えるEVベンチャーは現れていません。
ただ日本でもEVベンチャーは立ち上がりつつあります。その中でも広島発「小型モビリティで世界を“ワクワク”させる」を掲げ、1人乗り電気自動車を手掛けるKGモーターズが注目を集めています。
Youtuberから自動車メーカーへ。事前のモニター募集では5000人を超える応募があり、現在モニターに向けたクルマの開発が進められています。Google Japanが選ぶ世界に影響を与えるクリエイター101人にも選ばれたKGモーターズCEOくっすん氏にモビイマ!が独占インタビュー。(JMSの会場でお聞きしました。)ミニマムモビリティのポテンシャルからこれからの事業計画、クルマを作る難しさまで多種多様に渡る内容を全3回に分けて発信します。日本のEVベンチャーの現状が分かる、そして自動車業界のこれからを考える上で非常に参考になるインタビューです。(そんなことを抜きにしても読んでいて非常に面白い)それでは早速お読みください!
KGモーターズ CEO 楠一成(くっすん)氏 プロフィール

後ろがとても田舎の風景なのがとっても良い写真
2005年シーエルリンク株式会社創業。国内外メーカーにて自社ブランドのOEM生産を開始し、自動車用アフターマーケット部品の販売を拡大。2018年脱炭素の流れを受け、小型モビリティ事業参入を決意。シーエルリンク株式会社の株式を売却し、影響力拡大を鑑みYouTubeを開始。3年でチャンネル登録25万人を達成し、Google Japanが選ぶ(世界に影響を与える)クリエイター101人に選ばれる。その影響力を活かし車体製作に必要な人材確保を開始、2021年より本格的に小型モビリティ開発をスタートさせ2022年にKGモーターズを立ち上げる。
Twitterアカウント:@kussunokio
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ミニマムモビリティが移動の可能性を広げていく

カッパッパ(以下カッパ)
まずはKGモーターズさんがどのような会社で、どのようなものを目指されているのかっていうところを教えてください。
楠一成氏(以下くっすん)
今やろうとしているのは1人乗りの超小型のモビリティを作ることです。1人乗りモビリティはで未だに世界で本当に普及した事例がないので、その事例になりうるものを今作ろうとしてます。そして、YouTubeなどでも発信しているんですけど、ミッションとして「今日より明日がよくなる未来を創る」を掲げていて、小型モビリティを創ることで実現しようとしています。
これは人間は移動自体が尊厳、欲求の一つになってると思っているからです。特に日本人は元々アフリカの辺りで人類誕生してから極東まで一番移動してきてる。そういう意味で「移動できるかどうか」ってすごく重要だと思っています。
日本では今少子高齢化が進んでいて、人口減少している。東京とかの大都市であれば便利な公共交通機関で移動できる。ただ、地方って本当に移動が苦しいんですよ。今後さらに都市部に人口が集中して地方が崩壊していくことを危惧しています。そういう意味で将来的に公共交通機関の代わりになりうるモビリティを作り上げたい。代わりになるには便利、環境に良いだけでなく持続可能性が必要になると思ってるので、小型モビリティの先に自動運転を用いたMaaSビジネスを考えていますね。
カッパ
今話された部分で共感できたのは移動がすごい大事だというところです。例えばこの何年かコロナで移動ができなかった時期があって、すごいストレスになっていたと思います。在宅勤務などで動かなくてもいいじゃんみたいな方向性もあったんですけど、コロナが明けた今、人はどんどん動くようになってきている。やっぱり移動ってすごい大事。あと地方の移動の難しさ。僕も実は実家がど田舎にあって、移動の難しさを実感してます。山の上に住んでるんですがバスも減ってるし、移動するには基本全部車じゃないといけない。両親が年老いてくると、車の運転自体も危うくなってきて移動そのものが難しくなってしまう。しかも道はめっちゃめっちゃ狭い。
くっすん
僕の地元の広島県呉市とかなり似通ったイメージですね。
カッパ
だからYouTubeの動画の中でも、路地の細い道を通るところ、あと農道の細い道通っていくところすごく好きなんですよね。あれは普通の車が通れなくて、通れても軽トラがギリギリ通れるくらい。そういう点でミニマムモビリティはすごい地方にフィットしていて、それが素晴らしいと思っています。
KGモーターズが目指す到達地点

カッパ
今の事業についてお聞きしたいのですが、今は1人乗りの電気自動車を量産に向けて今取り組まれてるところなんですよね。
くっすん
25年の春から量産と販売を開始して、来年から受注は受けていこうと思っています。それに向けて今は、コンセプトカーしかなかったところから試作「0」「1」を作るところを今進めている状況です。
カッパ
来年にはモニターを始められるんですよね。そして最終的にはクルマを量産して、作るだけじゃなく、MaaS、シェアリングや自動運転を使ったサービスも手掛けていくという計画を立てられている。
くっすん
そうです。クルマを作るのだけでなくMaaSでのサービスを目指しています。やっぱりモノを特にモビリティを売り続けるビジネスモデルはもうちょっと限界を迎えているんじゃないかなと。少なくとも日本では今後、人口が減少している局面に入って、クルマが必要な台数も減っていく。加えてシェアリングも高まっていくと考えれば、もう販売台数は頭打ちだろうなと思っているんですよ。
カッパ
日本市場はずっと右肩下がりですね
くっすん
そうなんですよ。今まではモビリティを共同で使うのは不便だったから、みんな使わなかった。ただ今は共同で使うことが不便じゃないように変わってきていて、これから当たり前になるポテンシャルが持っている。確実にそこは伸びていく。そう考えれば我々のモビリティ、1人を最適に運ぶっていうサービスには大きな可能性がある。
今の移動は「オーバースペック」

くっすん
例えば、オンデマンド交通はあるんですが、地方ではなかなか難しい。現状、タクシーを使うしかない場合も多い。そして、大きなモビリティを自動運転で動かすことをみんなやろうとしているけれど、地方の乗車率が上がるかというとわからない。1台何千万、億単位のクルマを、本当に人口が減ってる地方自治体に導入して維持できるのかというと、僕はできないと思うんですよ。採算が絶対合わなくなる。

カッパ
KGモーターズさんが資料を出されている中で、今移動は全部オーバースペックという指摘があります。確かに1人で移動するのが大半。そして資料の中で面白いと思ったのは軽自動車でもオーバースペックという点です。確かに言われてみれば1人で移動するのであれば、軽自動車でも大きい。家族と出かける時があるから、そのために大きなクルマを買うのですが、大体1人で移動することを考えると、本当は1人乗りでいいはずなんですね。
くっすん
今までは1人乗りの選択肢がなかった。だから最大値をとって、1年に1回しか乗せないお爺ちゃんお婆ちゃんのために、7人乗りや8人乗りのクルマを買って、残りの360日ぐらいはほぼ空で運ぶ。それって極めて非合理的なのかなと思ってるんですよ。
今は日本だけじゃなく世界で、1人乗りで快適に安全に移動できる選択肢がないからまだみんなが大きなクルマを使っている。本当の意味で選択肢が出来れば、1人乗りを選択していく人も増えていくというのがKGモーターズの根本的な考え方です。
カッパ
例えば1人乗りではないですけど、欧州のAMIや中国宏光miniなどの小型モビリティは増えているし世界で流行っている。小型モビリティを追求していけば1人乗りになって、そのポテンシャルはものすごくあると私も思います。
ミニマムモビリティの優位性

くっすん
実際日本の1人乗り、今の我々がやろうとする原付ミニカーという規格には非常に優位性がある。
カッパ
原付ミニカーだと維持費も安いんですよね。
くっすん
非常に安いです。軽自動車よりも断然安くて、1万キロ走った時は維持費は大体10分の1になります。自動車税は一応かかるんですけど原付相当の3700円。原付とほぼ同じ維持コストで運用できることは、将来すごい力を発揮すると思っています。みんなを乗せるクルマは基本的に定期運行させないといけない。ただ、定期運航をやると、人が乗ってなくても動かさないといけないというジレンマが生じる。僕らがやろうとしてる本当のパーソナルな乗り物は、誰も乗らないんだったら動かさないという運用ができるんすよ。動かさなければエネルギーも使わない。ただ、動かさなくても維持費はかかるんですが、原付並みなのでそれほどかからない。そうなると、持続可能な仕組みが構築できる。
加えて、自動運転のバスだと、自分の家からバス停まで、またバス停から最終目的地まで歩いたり、乗り継がないといけない、迎えに来てもらわないといけないんですが、1人乗りの自動運転であれば、自宅からそのままストレートに目的地に行けるので、本当の意味でのオンデマンド交通が達成できて、極めて合理的なのかなと思っています。
カッパ
本当に将来性を感じます。例えば地方の工場に見に行く場合に駅まで行って、そこからタクシーというケースよくあるんですよ。ただなかなかタクシーもない。結果、迎えに来てもらわないといけない。ただ、結局は移動するのは自分1人。小型モビリティが1台あればそれで十分。しかも維持費が安いとなれば、サービスとして十分に回っていけるのかなと思います。
くっすん
自動車に限らず、そういう移動に困る地域があることを僕ら、田舎の人は認識してる。大都市の人は、タクシー乗ればいいかと思ってしまう。そもそもドライバーがいないといった現状を全然わかっていないんですよね。タイムズさんみたいなカーシェアを置いてみても、年間何回使われるのかのレベルで、絶対採算合わないですよ。稼働率が絶対的に低い。我々の場合は、自動運転なしでのシェアリングで、稼働率を極限まで下がっても、維持費が安いので、損益分岐超えるポテンシャルがある。その点は圧倒的な優位性があると思っています。

カッパ
KGモーターズさんの資料ではシェアリングで乗って、帰りは自動運転で帰るという提案もされていてすごく良いなと思っています。乗り捨てできる点も非常に魅力的です。
くっすん
自分たちは初期から1人乗りでのシェアリングをずっと考えています。ユーザーインタビューや市場調査して、やっぱり本当の意味でシェアリング成立させようと思ったら乗り捨てができないと無理。ただ乗り捨てを人力で、たとえば今LUUPさんがやられてるようなやり方をクルマするのは、不可能なんですよ。絶対に採算性取れない。まず駐車場二つ借りないといけないので、死んでる土地を持たないといけない。さらにクルマを回遊させる仕組みを作らなきゃいけない。ただ1人乗りモビリティで自動運転ができるようになれば解消できるよねという話をずっとしています。
カッパ
言われていることはもっともだと思います。地方で本当にタクシーもない、バスも運行できなくなってきているところでも、買い物には行かなきゃいけないし、病院に行かなきゃいけない。結局クルマを運転するしかないんですが、大きな車持っておくのはオーバースペックなんですよね。
Youtuberであることの強み

くっすん
こうした1人乗りモビリティの可能性はほとんどの人が知らないし、信じてないんですけど、ただ僕らは将来性はあると思っています。やっぱり多くの人達に見てもらう知ってもらう必要があって、そういう意味で自分たちはメディアとしてYouTubeやSNSがあり、見ていただける。この点は自分たちがすごい強みかなと思っています。
カッパ
いかに知ってもらえるかはすごい大事で、その点でKGモーターズさんはYouTubeの登録者がたくさんいらっしゃるのはすごいなと思っています。
くっすん
本当にありがたいです。あとは私自身も自動車業界にいましたけど、OEMやティア1にいたわけではなく、自動車業界からしたら外の人間。ただミニマムモビリティを作るためにはクルマに熟知した人や、自分たちのミッションビジョンに共感してくれる人たちと協力しないといけない。その時に仲間集めという点で、YouTubeのはすごい力を持っていると思います。
カッパ
今発信されているビジョンにすごく共感する、特に地方では賛同する方が多いと思うので、自分のメディアを持って発信できるところはKGモーターズさんの強みですよね。
初回のインタビューはここまで。次回は「クルマを作るために必要な『仲間作り』」、クルマをつくるためには一体なにが必要なのかをお伺いします。
こちらも中身の濃い非常に面白いインタビューになっておりますので乞うご期待です!
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