【ホンダ 25年4-6月期決算解説】四輪事業赤字化の要因は自動車業界共通の『3重苦』
「四輪事業赤字の要因は、自動車業界全体の課題『中国販売不振』、『EV不採算』、『関税強化』の直撃」
2024年下期以降、四輪事業(自動車)の採算性が悪化しているホンダ。HEVモデルの北米販売が好調で採算性が高い一方で、中国での販売不振、EV事業の不採算性、アメリカでの関税強化によって、大幅に業績が悪化。25年4-6月期は赤字に陥りました。自動車業界全体の課題を体現したとも言えるホンダの決算の詳細を解説します。
1.赤字化した四輪事業とホンダを支える二輪事業の強さ

ホンダ、25年4-6月期決算は減収減益。売上高は5兆3,402億円(前期比▲645億円/▲1.2%)と微減であったのに対し、営業利益は2441億円(前期比▲2405億円/▲49.6%)と半減しました。営業利益率は▲4.4Ptの4.6%。前期4-6月期が極めて好調であったということを差し引いても、今期の決算は決して好業績とは言えません。
採算性が悪化した要因は主力事業である四輪=自動車事業の利益減。四輪事業単体で見た場合の営業利益率は▲0.8%と赤字化しています。販売台数も83.9万台(前期比▲3.0万,▲5%)と落ち込んでいます。北米が販売好調で前期比増となる一方で、中国で大幅に販売を落としており、そのカバーができていません。
こうした四輪事業の業績悪化をカバーしたのが二輪事業。全世界シェアTOP、圧倒的王者である二輪事業では売上高は9515億円と四輪事業の約1/4ながら、営業利益は1890億円を計上。二輪の営業利益率は驚異の19.9%。二輪事業の好採算性がホンダの業績を支えています。

ホンダ全体での営業利益の増減要因を見ると、販売影響、売価/コスト影響(単価アップ)がプラスを生み出し、諸経費や研究開発費、為替影響のマイナスを、ほぼ相殺しています。ただ、そこからEV一過性費用と関税影響がマイナスとなり、大幅減益になりました。「EV一過性費用」と「関税影響」の多くは四輪事業です。25年4-6月期では四輪事業の採算性悪化が顕著になっています。
2.一向に回復の兆しが見えない中国市場

ホンダの四輪事業が直面している大きな課題は、一向に回復の兆しが見えない中国市場での販売台数です。25年4-6月期では中国販売台数は前期比▲4.3万台。北米販売が好調で台数を伸ばしたものの、他地域での落ち込みもあり、中国事業がマイナスをカバーしきれていません。25年度に入ってからは、トヨタ、日産が前期比増と販売台数を回復させる一方で、ホンダは前期比割れが継続しており、右肩下がりで落ち込む傾向に変化は見られません。
中国市場ではBEV/PHEVを中心としたNEVへの移行が予想よりも大幅に進行し、直近では50%超え、BYDや中国新興メーカーの台頭により価格競争も激化しています。ホンダを含めた海外メーカーのシェア低下、採算悪化が顕著になっています。ホンダもBEVでの新車種投入などで挽回に向けた対応を進めているものの効果は出ていません。ホンダは構造改革を進めてはいるものの、販売台数の落ち込みが著しく、依然生産能力過剰となっており、このまま挽回できなければ更なる削減が迫られます。台数が出ないことに加え、価格競争激化で稼げなくなってしまった中国市場をNEV新規開発と内燃機関車工場の再編でいかに立て直せるのかが、ホンダの四輪事業の今後を占う上での重要ポイントです。
3.拙速すぎたEV投資の代償

中国以上にホンダの採算性を悪化させているのがEV事業です。今回ホンダは営業利益で「EV一過性費用」として▲1134億円を計上しました。これは開発しているBEVラインナップ見直しによる資産の除却などであり、EV事業全体のマイナスではありません。決算後の会見ではEV事業は通期全体で▲6500億円、そのうち一過性費用が▲2500億円、通常運転での損失が▲4000億円と説明されています。(4-6月で計上されたのが一過性費用▲2500億円のうち、▲1134億円)
アメリカではGMと共同開発したBEV「プロローグ」の販売が好調です。しかし、販売好調なのはGMとの契約があり、在庫を売り切らなくてはならず、多額の販売奨励金を拠出しているためです。BEVは補助金が支給されるものの、純内燃機関車と比較すればどうしても価格が高くなります。販売を伸ばすためには、実質的な価格を下げる=販売奨励金を支給することがどうしても必要になります。BEVでの販売奨励金はHEVの約10倍の1台当たり150万円近い販売奨励金を出し、この影響により四輪事業の採算性は大幅に悪化しているのです。GMとの契約は見直しを進めており、来年分を含めた費用が一過性費用に反映されているため、来期以降は一過性費用は発生しない見込みと会見で述べられていますが、依然それでも▲4000億円が残り、四輪事業全体の足を引っ張っていまう。5月に発表されたビジネスアップデートの中ではEVへの投資後ろ倒しが発表されており、グローバル需要に見合わないEV開発を拙速に先行させたことが、現在のホンダの苦境を生み出しています。
カーボンニュートラルにむけて今後EVが四輪事業の柱となっていくことは間違いなく、技術開発、市場投入を進めていく必要があります。ただし、現時点ではEVは赤字、採算上大きな重荷になっていることは明らかです。EV事業が不採算であることはホンダだけでなく、既存自動車メーカーで投資を進めていたGMやFordでも同様であり、自動車業界全体の課題です。ホンダでは2030年段階での黒字化を目標として掲げています。既存の内燃機関車とのバランスを取って、採算を維持しながら、戦略的にいつどのようにEVシフトを進めていくのかがホンダそして、他社自動車メーカーの業績、将来性に影響を与えていくでしょう。
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