【日産23年第3四半期決算解説】好調の陰にある「想定」よりも落ち込んだ理由
「確かに業績は良い。ただ思っていたほどではない。」
揉めていたルノーとの資本提携関係見直しがようやくひと段落し、北米、欧州を中心に受注好調、販売が大きく回復した。一方で中国市場での落ち込みが非常に大きく回復の兆しはなかなか見えてきていません。プラス、マイナス両方の要因が顕在化した日産の第3四半期業績を詳細に解説します。
1.指標は大幅に改善したけれど手放しでは喜べない第3四半期
日産「2023年度 第3四半期決算発表(2024/2/8)」より
23年第3四半期は増収増益。売上高は9兆1714億円(前年比+22%)、営業利益は4784億円(前年比+65%)、営業利益率も5.2%(前期比+1.3ポイント)。業績は前期と比べ、各指標、大幅に改善し、第3四半期での売上は過去最高を更新しました。これまで取り組んできた構造改革「NISSAN NEXT」が実を結び、営業利益率が大きな伸びを見せています。
日産「2023年度 第3四半期決算発表(2024/2/8)」より
第3四半期までの累計グローバル販売台数は前年同期比+1.2%の244.1万台。生産台数は前年同期比+0.3%253.4万台。前期比とほぼ横ばいなのですが、不安なのは第3四半期単独だけで見た場合、前年比マイナスとなっている点。
日産「2023年度 第3四半期決算発表(2024/2/8)」より
これは中国での生産が大きく落ち込んでいることに起因しています。中国は前年比-36.5%と大幅な落ち込み。他地域が14.7%のプラスとなっていることとは対照的です。日産は中国での販売台数が売り上げを支えていましたが、中国メーカーの躍進を受け、シェアは大きく低下。他の日本メーカーと比較してもその影響は大きく、中国市場での立て直しが急務の課題となっています。
日産「2023年度 第3四半期決算発表(2024/2/8)」より
前年比との比較で、営業利益の増減理由を見ると1番効果をあげているのは「販売パフォーマンス」で3117億円。台数/構成変化=高単価車種/グレードの販売増、販売費用/価格改善=販売奨励金減/値上げが増収増益の好業績を牽引しています。日産は20年頃まで北米でのフリート販売やインセンティブを多額に拠出して、1台当たりの利益の低さに苦しみ、結果赤字に至った過去があります。取り組んでいる事業構造改革「Nissan NEXT」、新車攻勢によって1台当たりの単価UP→販売の質の改善を改善。ただ直近は生産が回復して在庫量が増加したことから販売費用(インセンティブ)が増加し、第2四半期までほどの効果が出ていません。また原材料がプラス(価格が下がった)となった一方で、モノづくりコストが▲797億円となっているもの見逃せません。これは製造コストが上がっていることを意味しており、要因は「サプライヤーへの遡及払い」「インフレ」および「法規制」。販売価格の向上でコストが増えた分の価格転嫁はできているものの、今後販売が落ち込み、インセンティブが増加すれば、減益になっていく可能性があります。
日産「2023年度 第3四半期決算発表(2024/2/8)」より
財務実績ではフリーキャッシュフローがプラス、ネットキャッシュが増えており、財務状況は改善しています。そして落ち込んでいる中国市場でも営業利益率が5.0%と合格点と言える基準を達成しています。
過去最高の売上を達成し、十分な営業利益を出し、財務状況は改善されてはいるものの、第2四半期までの勢いはなくなってきている日産。その要因は中国の販売不振。ただ落ち込みの原因である中国でも十分な利益は確保しており、全体でも営業利益率5.2%と前年比増。手放しでは喜べない内容ですが、赤字のころと比較すれば体質強化が進み、業績は大きく回復していると言えます。