【喜べない最高益】一強のトヨタが直面する前例見当たらぬ「品質」と「認証」問題
トヨタが未だかつてない危機に直面しています。
2023年販売台数世界TOP、2位VWに100万台以上の差をつけ、断トツの1位。グローバルでシェアを伸ばし、海外を含め自動車メーカーの中では業績が頭1つ抜けているトヨタ。四半期だけで売上高10兆円、営業利益1兆円を超え、営業利益率は10%以上にまで達しています。トヨタは日本最大の企業でもあり、これまで日本経済を牽引してきました。
「安全」「高品質」のブランドイメージを作り上げ、世界で高い競争力を持ってきたトヨタ。ただ24年に入り、その根幹を揺るがす「品質」と「認証」問題が相次ぎ、その潮目が変わりつつあります。トヨタが直面している問題と直近で発表された決算を解説します。
1.「トヨタ、お前もか」終わらない認証不正問題
今、トヨタにとって最も大きな問題は型式認証不正問題です。23年にダイハツで発覚して以降、各社で自主点検を行った結果、トヨタでも不正が発覚。不正が発覚した現行生産車の「カローラ フィールダー」「カローラ アクシオ」「ヤリス クロス」は24年6月から生産を停止(認証内容に問題がないことを確かめるため/24年9月再開予定)。その後、トヨタは自主監査で追加の型式認証不正はないと発表しました。しかし、7月末に国土交通省からの指摘で新たな7種の不正が発覚。現行生産車の「ノア、ヴォクシー」は一時生産停止(適合が確認されたため、生産再開済)となり、他の不正に関しては海外基準であったために、法規上、問題がないか現在確認中となっています。
型式認証不正をすること自体が問題であることに加え、自主監査では「なし」→国土交通省の追加調査で発覚することは非常に大きな問題であり、企業としてのあり方を問われる内容です。こうした事態を受け、トヨタは国から初の「是正命令」が受けることとなりました。
まさに前代未聞の危機。型式認証は「安全」に関わる法規対応であり、消費者からの信頼低下は免れません。また型式認証不正が発覚した場合はメーカーの自主検査でOKであっても、国から適合が確認されるまで、基本的には生産ができません。消費者に納期遅れとなるほか、メーカー、そして部品を供給するサプライヤーの売り上げも減少します。自動車メーカーのラインが止まることは損失範囲が大きく、これまで極力止めることがないよう、自動車メーカー、サプライヤーが協力し合い、生産停止を回避してきました。ただ、24年に入ってからは毎月のようにラインが止まる異常事態。これはトヨタがこれまでにない危機に直面していることの証左だと言えるでしょう。
2.品質問題で止まる生産ライン
生産ラインが止まっているのは型式認証不正問題だけではありません。「品質」も大きな問題となっています。24年4月にはプリウスが品質問題により突如生産をSTOP。「後席ドアハンドルの開スイッチの防水性能が不十分」なことから、プリウスモデルチェンジ後の全車種でリコールを実施(全世界21万台)。生産再開まで2ヵ月半の期間を要しました。
また品質問題が起きているのは日本だけではありません。アメリカでは主力車種フルサイズピックアップトラック「タンドラ」とレクサス「LX600」のリコールが発表。内容は「製造過程での機械加工の破片がエンジン内部に残り、ベアリングを破損。最悪の場合、エンジンが停止する可能性がある」。今回のリコールはなんと搭載しているV6エンジンを載せ替えるというもの。対象車種は10万台にも及び、その対応や費用は膨大になると考えられます。
またその他でもSUV「グランドハイランダー」でもエアバッグが展開しない可能性があることからリコール、また安全基準を満たしていない可能性があるために、日本のプリウス同様ラインを停止したことが発表されています(24/6)。いきなりラインが止まるという点では「コロナ禍」「半導体不足」を超える事態になっています。
3.過去最高更新を喜べない4-6月期決算
「型式認証不正」「品質」に揺れる中、発表された2024年4-6月期トヨタ決算。売り上げは営業収益45兆953億円(前期比+7兆9410億円)。そして営業利益5兆3,529億円(前期比+2兆6,279億円)で過去最高を記録。営業利益率も11.1%と前期と比べ0.5ポイント上昇。生産停止や大規模リコールがある中でも、高収益体質を維持しています。すでに4-6月期決算が発表されている国内/海外自動車メーカーと比較しても、頭一つ抜けた独走状態にあります。
販売台数では連結販売台数が225.2万台、前期比▲7.4万台、3.3%減っています。これは上述の型式認証不正や品質問題で日本向けの生産を落としたため。しかし、他地域では台数を拡大しており、国際的な競争力/消費者からのニーズが依然高いことが示されています。
一見好調に見えるトヨタ24年4-6月期決算ですが、営業利益の増減要因を見ると、実態は昨年よりも苦しいことが読み取れます。今回収益が大きく伸びた要因は「為替変動の影響」で3,700億円。歴史的な円安は輸出企業であるトヨタにとって、大きくプラスに働き、最高益を更新できたのは為替益があってこそ。
しかしながら、為替益は外部要因であり、トヨタの実際の「実力」ではありません。「実力」に含まれる原価低減で+550億円、営業面での努力=車種構成の改善(高Grへのシフト)、販売価格改定(値上げ)で+700億円を積み上げてはいるものの、諸経費=労務費や研究開発費増▲2,250億円をカバーしきれていません。外部要因を除いた差異では▲1000億円となっており、トヨタの稼ぐ「実力」は昨年よりも低下しているのです。
所在地別の利益を見ると、営業利益を稼ぎ出しているのは日本。日本だけで四半期単独で8,842億円の営業利益を上げています。一見販売台数に対して利益が異様に大きいように見えますが、これは「所在地別」は車両の生産ベースでの利益を表していると見られるため。日本での生産→海外への輸出がトヨタに大きな利益をもたらしています。ただ、販売台数の大きい北米での営業利益が低下しており、インフレによるコスト/労務費UPがトヨタの業績にも影響を与えています。
数値だけ見れば好調を維持しているように見えるトヨタ決算。ただし、型式認証不正や品質問題がなければ、生産=販売台数を伸ばして収益、採算性が向上したはずであり、すでに業績に多大なマイナス効果をおよぼしています。また型式認証不正が与える影響は直近の決算だけではありません。認証不正により、新車の投入が後ろ倒しになっているという報道もあります。問題が起きた今期だけではなく、24年7月以降も型式認証不正の影響は残る、またより拡大していく可能性すらあります。「最高益」でありながらも、トヨタの幸先は決して明るいわけではありません。
4.揺るがない強みと今だからこそできること
「品質」「型式認証不正」問題に直面しながらも、トヨタが作り上げてきた「稼ぎ出す」力は依然大きく、他社とは一線を画しています。トヨタが得意とするHEVは24年4-6月期では前年同期比+23.7%の99.8万台。4半期ベースでほぼ100万台となっており、トヨタの営業利益を生み出す原動力となっています。電動化率は9.0%増加し、43.2%。HEVを含めた割合になりますが、世界各国の自動車メーカーと比較しても極めて高い割合です。(テスラやBYDなどのBEV/PHEV専業を除く)
また得意の原価低減でも四半期だけで550億円の効果をあげています。「乾いた雑巾」を更に絞ると言われる地道かつ、徹底したコスト削減が営業利益10%を超えるトヨタの競争力の源泉となっており、この強みは変わることはないでしょう。
半導体不足が解消され、供給が回復する中でもトヨタに関しては需要が高いことも特徴です。日本では受注に対して供給が追い付かず、納期までの期間が非常に長い(一部の車種では受注STOP)、他地域では他社と比較し、販売店の在庫が少ないなど、消費者からの熱い支持を受けています。
今期は研究開発費1兆3000億円、設備投資2兆1500億円と前年同期比プラスとする中で、営業利益を十分に確保。4半期だけで通期見通しに対して営業利益進捗率30%と積み上げは順調にできています。
こうした十分な競争力、体力がある今だからこそ、トヨタは膿を出しきる必要があります。今後、EVシフトが進む中ではどうしても製造コストが上がり、今よりも稼ぐ力は低下せざるを得ません。「稼ぎ時」の今のうちに「型式認証不正」「品質」、直面する大きな課題に取り組み、再発しないよう社内の仕組みを整えていく。トヨタは是正命令を受けてTPS自主研を通じて、仕組み、風土づくりに取り組むことを発表しています。TPS自主研とは言わゆるタスクフォース。職場主体で改革/改善に取り組む活動です。関わったことのある方ならわかるのですが、短い単位で関係者が集い、即断で対応事項を決め、宿題を持ち帰り、次の会合までにやり切る、非常に改善効果のある活動です(その分、参加者への負担も大きいのですが…)。トヨタにはこうしたカイゼンのノウハウがあり、今回の「型式認証不正」でも活かすことができれば、今の1強の地位をより揺るがないものにできるかもしれません。
業績だけを見れば好調なトヨタの決算。ただ中身をよく見ると、24年に入ってからは「品質」「型式認証不正」の問題が業績にも影響を与え、手放しで喜べない状況が続いていることが分かります。イマを天井しない、更なる飛躍を遂げるために、膿を出し切ることができるのか。各国の販売状況と共に、「品質」「型式認証不正」でトヨタがどのような取り組みを行い、改善していくのかにも注目です。
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