【21万台リコール/生産停止】トヨタ看板車種「プリウス」で何が起きているのか
トヨタと言えばハイブリッド車。その中でも看板車種として、人気を博し、世界で台数を伸ばしてきた「プリウス」。一昨年22年11月にモデルチェンジを実施し、従来の圧倒的ともいえる燃費の高さに加えて、デザインや走行性能も評価され、日本だけでなく、グローバルでも販売が拡大していました。
その「プリウス」を生産しているトヨタ、堤工場の生産ラインが4月初旬から停止。その後も停止が継続し、4月末になった今でも稼働は再開していません。そして、発表された生産開始から全ての車掌を対象とした日本だけで13万台、グローバルでは21万台に及ぶ大規模リコール。その中身を確認すると、今回の品質不具合が極めて大きな問題であることが分かります。何がそんなにヤバいのか。その詳細を解説します。
突如止まった生産
「何か異常が起きている」トヨタ、堤工場、生産ラインが止まる一報が入ったのは4月に入ってすぐ。4/4から生産が停止し、「一部の生産工程の確認作業のため」行うことが連絡されました。自動車工場が生産を止めるのは一大事。注文をしているユーザーの納期が遅れるだけでなく、自社の売上高が減ってしまう+人員などで無駄が発生し余計なコストがかかる+部品を納入するサプライヤーへの影響も大きいため、通常は「何とかしてラインの生産を繋ぐ」ことが一般的です。
ただ、数年前と比較すると直近は災害なども含め、ラインが止まる回数は多くなっており、今回もすぐに生産が再開されるはず。。。がその後もライン停止は継続。続報では4/9→12→17と再開は後ろ倒しに。1日止めるだけでも数千万規模での影響が出るトヨタの生産ラインを長期間止めることは極めて重大事件。
そうした中で、4/17、プリウスのリコールが発表されました。
「最悪の場合、走行中に後部ドアが開く」
後席ドアハンドルの開スイッチの防水性能が不十分なため、洗車等で多量の水がかかるとスイッチ内部に浸入することがある。そのため、そのままの状態で使用を続けると、スイッチ内部の回路が短絡して作動し、最悪の場合、走行中に後席ドアが開くおそれがある。
リコールの内容は後席ドアの不具合。防水機能が不十分であるために、スイッチ内部へ浸水→ショートし、最悪の場合、走行中にドアが開く可能性があるという内容。対象はこれまで生産してきた全ての自動車が対象。日本だけで13万台、全世界では21万1000台にも及びます。
走行中にドアが開けば、道路へ乗員が放り出される可能性もあり、危険の高い不具合。既に市場で3件が報告されています。21万台に対し、3件=14ppm(ppm=100万分の1)、業界外の方からすれば低い確率かもしれません。ただ、市場からの不具合が全量報告されるわけではなく、実際はより多くの不具合が発生している可能性があります。そして、不具合の内容を分析した結果、再現性有→「走行時にドアが開く」リスクの高さを踏まえ、生産を止め、大規模リコールを行うことになったと推測されます。
問題になっているサプライヤーは…
リコールの発表と同時に、問題になっている後部座席部品の製造が東海理化であることも発表されました。東海理化はトヨタグループのTier1サプライヤー(一次仕入先)で、主に自動車関連の各種スイッチやレバーを生産しています。
今回のリコールに伴う品質費用の見通しは110億円。昨年度2023年の純利益が109億円だったことを踏まえると、1年分の利益がこの品質不具合で吹き飛んだ計算になります。品質不具合によるリコールはディーラーにクルマを持っていき、修理してもらうユーザーへの負担もさることながら、その対策部品を準備するサプライヤーにとっても極めて大きな負担となります。大規模リコールを発端に経営が悪化し、事業再編に至ったメーカーも多数あり、品質不具合を起こさないことは自動車関連サプライヤーにとっては至上命題となっています。
リコール内容と対象から考える不具合の要因
品質不具合によるリコールでは「設計/製造」と「自動車メーカー/サプライヤー」に分けて、要因を分別できます。
「設計/製造」では品質異常が設計時、製造時なのかの区分です。設計時の不具合とは、部品を図面通りに作っても品質異常が発生してしまう不具合を示しています。この場合、どんなに製造で品質を作りこんだとしても、不具合が発生してしまい、その図面で作られた製造した全ての製品が対象となります。製造時の不具合とは特定の期間で生産された製品が図面から外れた仕様となっているために起こる不具合です。例えば、部品の熱処理工程において、設備故障によって焼き入れが不十分などが該当します。こうした製造時の品質不具合については、発生、流失に対し、それぞれ対策が取られ、品質が担保できるよう製造品質を作りこむのですが、それでも品質異常品が流出してしまうことはあります。
「自動車メーカー/サプライヤー」の区分は要求している仕様に対しての責任区分です。自動車での品質異常が発生しないためには、そのために部品にどのような性能が求められるのか=要求仕様を明確化する必要があります。通常の場合、自動車メーカーからサプライヤーに要求仕様が提示され、サプライヤーはその要求仕様を満たした製品を納入しなければなりません。「自動車メーカーからの要求仕様を満たしても品質異常が発生する=要求仕様のミス=自動車メーカー責任」、「自動車メーカーからの要求仕様が満たせていない製品を納入する=製造側のミス=サプライヤー責任」に区分することができます。(割合は0/100ではなく、両者に跨る場合も有ります)
今回のリコールは生産した全てのプリウスが対象となっていることから、設計段階での問題であり、東海理化から発表があったことから、サプライヤーでの問題(100%かは不明)であると考えられます。
まだ見えない「終わり」
今回のプリウスリコールの問題はその不具合の内容もさることながら、対策の完了が現時点で見えていないことが大きな問題です。今回のリコールでは、一時的にヒューズをOFFにし、自動での開閉ができないように対応(手動のみ)。そのため、本来の自動開閉を可能にするためには、再度部品の交換が必要になります。通常のリコールであれば、対策部品が準備、目途付けできた段階でなされる場合が多いですが、今回は一時しのぎの暫定リコール。走行中に後部ドアが開く異常は生命に関わる可能性もあり、暫定的であっても対策を急いだものと推測されます。
生産を止めているプリウスの生産ラインについても、カローラについては生産再開が報道されているものの、プリウスは対策品の準備ができてからと報道され、生産再開時期は確定していません。プリウスは全世界で人気を博しており、注文済みのユーザーに製品を届けられない緊急事態がしばらくつづくこととなりそうです(業界中の人からすると、生産されない=売上が上がらないため、プリウスに使われている部品を製造するサプライヤーへの影響は部品在庫なども含めて大きな問題)
リコールになった部品は市場で販売済みの自動車への交換部品+車両の組み立てに使用される量産用の部品を並行して生産する必要があり、サプライヤーでは供給量が一時的に膨大に増えます。生産能力に余裕があれば、対応ができるのかもしれません。「トヨタ生産方式」のピンと張った生産方式を採用していた場合、生産余力は少なく、すぐに対応することは難しいでしょう。
自動車業界にいる身からすると、今回の品質不具合は数ある中でも最悪に近いケース。市場不具合での事故、被害者がまだ報道されていないものの、不具合の内容は重大で、かつ対策の目途が立っておらず、自動車メーカーの生産ラインが止まっている状況。プリウスという看板車種であることも含めると、ユーザー、そして、トヨタ、関連するサプライヤーへの影響は甚大です。今後はいつ対策部品が準備され、本対策となるリコール、そして生産再開がいつになるのかが焦点。トヨタの業績も左右しかねないだけに今後も続報に注目です。
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