【グッドディール?!】自動車関税15%は日本メーカーにとって「勝ち」なのか

トランプ氏が大統領に就任後、保護主義政策が推し進められ、関税が強化されました。その中でも日本の主要輸出品である自動車への25%の追加関税(合計27.5%)は日本自動車業界のみならず、日本経済全体に影響を与えています。粘り強い交渉の結果、合意された自動車関税15%。果たしてこの15%は日本メーカーにどのような影響を与えるのか、深掘りして解説します。
カッパッパ 2025.07.27
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「最悪は回避し、相対的に有利だが、経営全体に重くのしかかる関税15%」

日本自動車業界にとって「ドル箱」だったアメリカ自動車市場。中国や東南アジアで販売不振が続く中で、販売価格が高く、需要が好調に加え、歴史的な円安の追い風もあり、アメリカ市場が日本各メーカーの業績を支えてきました。ただし2024年後半以降、環境は変化。トランプ氏が大統領に就任後、保護主義政策が推し進められる中で関税が強化され、25年4月3日からは自動車へ25%の追加関税(合計27.5%)が課せられました。この関税強化は日本自動車業界のみならず、日本経済全体に影響を与えています。主要輸出品である自動車への関税軽減のため、日本政府は粘り強い交渉を続け、結果合意された自動車関税15%。果たしてこの15%は日本メーカーにとって「勝ち」と言えるのか。今後、どのような影響を与えていくのか、深掘りして解説します。

1.「自動車輸入大国」アメリカ自動車市場

中国に続き、世界第2位の販売台数を誇るアメリカ自動車市場。2024年の販売台数は1649万台、日本の3倍を超える巨大市場となっています。ただそのうち、輸入台数は802万台と、全体の48.6%を占め、約半数が海外で生産された自動車となっています。そのうちメキシコが296万台(37%)、韓国が154万台(19%)、日本が138万台(17%)、カナダは107万台(13%)とこの4カ国で全体の86%と大多数を占めています。アメリカの自動車輸入金額は2024年だけで2435億$(約36兆円)。アメリカは多額の貿易赤字を長年抱えており、自動車がその大きな要因であることは間違いありません。

日本自動車メーカーは近年日本からアメリカへの輸出で大きな利益を稼ぎだしてきました。2022年~2023年にかけては半導体供給問題による生産調整が行われた結果、需要>生産となり、販売奨励金が抑制。歴史的な円安も大きな追い風となり、アメリカはまさに「ドル箱」市場。中国や東南アジアで販売が落ち込む中で、アメリカの売上で業績をカバーしてきました。24年3月期の決算では各社が過去最高の売上や営業利益を更新できたのはアメリカ市場、特に輸出で稼げたことが非常に大きかったと言えます。

2.驚異の自動車追加関税25%が与えたインパクト

トランプ氏の大統領就任により、「ドル箱」だったアメリカ市場が一転、稼ぐことのできない市場へと変貌を遂げました。2025年3月、ドナルド・トランプ米国大統領は、貿易拡大法第232条に基づき、自動車および特定の自動車部品の輸入に対して25%の「追加関税」を課すことを発表。アメリカの貿易赤字削減、およびアメリカ国内の産業基盤を優先する政策は日本自動車業界に多大なダメージを与えました。4月からは完成車、5月からは自動車部品の関税が実際に引き上げられました。

2024年、日本からアメリカの乗用車輸出額は5.88兆円。自動車関税は2.5%であったため、関税額は1470億円。追加関税25%が上乗せになると関税は27.5%になり、関税額は1.61兆円にまで膨らみます。これはあくまでも単純計算のため、実際の自動車メーカーの対応により、軽減は見込まれるものの、成り行きでは関税だけで1.5兆円のコストUP。加えて日本メーカーが工場を持つメキシコやカナダからのアメリカ輸入にも関税が強化されるため、影響額はより大きくなります。

すでに関税強化による影響は出始めています。トヨタは4月5月のみで1800億円の営業利益押し下げがあったことを発表。アメリカへの輸出比率の高いSUBARUは通期で最大25億ドル(3600億円)と営業利益の75%が吹き飛ぶほどの影響があると試算しています。2025年5月の米国向け自動車輸出は台数では前年同月比3.9%減にとどまりましたが、輸出金額は25%も減少しています。これは自動車メーカーが輸出量を維持するためにコストの大部分を吸収していることを示しており、採算性が悪化していることは間違いありません。こうした背景を受け、三菱自動車やマツダ、トヨタはアメリカ自動車価格の値上げを発表しています。

この見通しに対し、日本自動車工業会(JAMA)は「重大な懸念」を表明。日本の経済産業省(METI)も、影響を受ける産業を支援するため、迅速にタスクフォースと相談窓口を設置。日本政府も日本の主要産業である自動車の関税を下げるべく粘り強い交渉を続けてきました。そして結果として自動車関税15%を勝ち取ったのです。

3.自動車関税15%という「安堵」

2025年7月22日、米国と日本の間で貿易協定が発表され、日本からの米国への自動車輸出に対する関税が脅威であった25%に対し、緩和された15%になることが公表されました。この15%は「総関税」であり、実質的には元の2.5%に対して、12.5%の追加関税が課されることを意味します。

当初の25%の追加関税(合計27.5%)から15%の総関税への引き下げにより、日本自動車メーカーへのコスト負担は大きく軽減されます。例えば、300万円(約2万ドル)の自動車は、関税により約75万円(約5,000ドル)の追加コストに直面する見込みでしたが、合意された15%の総関税は、この追加コストを約45万円(約3,000ドル)にまで抑制することができます。   

この発表を受けて、最悪のシナリオ(25%の追加関税継続)は回避されたとして、自動車メーカーの株価は上昇。市場もこの関税に「安堵」していることが見て取れます。日本自動車工業会(JAMA)も「本合意により、サプライチェーン全体を含めた日本の自動車産業への壊滅的な影響が緩和されただけではなく、米国のお客さまにとっても最悪の状況は避けられたことを歓迎」と合意に至れたことを評価しています。

4.相対的に「勝ち」といえる自動車関税15%

日本自動車関税15%は他国と比較すると、相対的に有利と言える内容となっています。依然カナダ、メキシコへの近隣諸国を含めた関税は合意にいたっておらず、追加関税25%が適用されたままで、日本に比べて関税は高くなっています(米国製部品を使っている場合は割合により軽減措置あり)。日本を超える輸出台数の韓国も関税交渉を進めているものの、現状は25%関税追加は変更されていません。韓国自動車メーカーは日本よりも輸出比率が大きく、現地生産が少ないため、日本よりも関税低減交渉は難しいかもしれません。

またアメリカ国内で生産する自動車でも、他国から調達する部品には関税が強化されており、日本から輸出する方がコストがかからない可能性があります。高関税の代表的な材料は鉄鋼です。鉄鋼は自動車に非常に多く使用される原料ですが、現在、追加関税が50%課せられています。組み立てがアメリカ国内であっても鉄鋼が輸入品であれば50%の関税がコストUP。日本からの自動車完成品輸出は関税が15%に抑えられるため、総額でのコストUPは日本の方が低くなりえるのです。

アメリカのビッグスリーなどで構成されているアメリカ自動車貿易政策評議会は日本との関税について「アメリカの産業や自動車業界の労働者にとって悪い合意だ」と懸念を表明。 「アメリカ製の部品を多く含む北米で製造された自動車への関税よりも、アメリカ製の部品がほとんどない日本からの輸入車に低い関税を課す悪い合意だ」と非難しています。地元アメリカの自動車メーカーからしても、日本の自動車関税15%が有利な条件と見られており、日本自動車メーカーの関税によるコストUPは相対的に少なく、今後も競争力を保ち続けられる公算が高くなっています。(アメリカビッグスリーのうち、ステランティスは関税の影響があり、2025年1-6月期が4000億円の赤字、GMも2025年4-6月で関税影響による追加費用が1600億円かかったと発表され、関税は業績に多大な影響を与えています)

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