【24年4-6月自動車メーカー決算総まとめ】勝ち負け鮮明化!トヨタ以上の好業績をあげているのは〇〇〇

24年4-6月期の自動車メーカー決算。過去最高を更新が続出した24年3月期決算と比較すると、状況は一変し、各社ごとの業績に差が出ました。横並びで比較し、各社の状況を見える化すると共に、差が生まれた要因は何なのか、これからの予測を含めて詳細に解説します
カッパッパ 2024.09.01
誰でも

日本自動車メーカー、過去最高の業績!こう言い切っても過言ではないほど好調であった24年3月期決算。ただ、24年に入ってからは状況は変化しており、直近24年4-6月の自動車メーカー決算では、業績に大きな差がつき、勝ち負けが鮮明になりました。

一体どこの自動車メーカーが好調で、どこが苦しんでいるのか。そして、なぜ好調、苦境の要因と共に、今後どのようになるのか、注目ポイントを含めて詳細に解説します。

ボーナスステージは終わり!競争激化で大きな差がついた24年4-6月期業績

各社決算資料より筆者作成

各社決算資料より筆者作成

24年4-6月期の自動車メーカー決算を横並びで比較すると、悪化する/引き続き好調を維持する企業に分かれ、業績に大きな差が出ています。前期24年3月期の決算では。7社中6社が売上高、4社が営業利益において過去最高更新するこれまでに類を見ないほど好調な決算内容=「自動車メーカー全体が好調」でしたが、今期に入り、状況は一変。7社中6社は増収、5社が増益となっているものの、増益の中身を見ると歴史的な円安による効果が大きく、内部要因ベースでみると減益となる企業が多数。

「半導体供給不足により需要>生産となり、値下げをしなくても売れる」「円安による為替益の増加」「インフレによる車両価格値上げの浸透」これらの要素が相まって実現した自動車メーカー全体が儲かる「ボーナスステージ」が終わり、24年4-6月期からは再び競争が激化し、各社の実力が問われる期間に入ったと言えます。

ドル箱でなくなった「北米市場」

24年に入って以降、一番大きく変化したのは北米市場、特にアメリカです。23年までは日本自動車メーカーにとって北米市場=「ドル箱」。インフレで車両価格が上がると共に、歴史的な円安、需要も堅調で販売奨励金が少なくても販売が進む、ことから、各社は北米で稼いで、過去最高益をなし遂げました(ほぼ販売されていないスズキ除く)。

ただしその背景にあったのは、半導体供給不足により自動車完成品の在庫がタイトになっていたからこそ。供給不足が解消された23年後半以降は在庫水準が回復し始め、販売奨励金もその回復に合わせて増加。SUBARU、マツダの決算資料では具体的な販売奨励金のトレンド(全社平均)が示されており、23年4-6月約2000ドル→24年4-6月では3000ドルを超えています。今期は単純計算で1台当たり1000ドル=14~15万、利益が減ったことに。北米市場を主軸とする各社が、前期との営業利益との差異で販売奨励金増加をあげており、業績への影響は深刻です。ただし、販売奨励金の増加では各社のクルマのもつ「競争力」が如実に表れた結果になっており、人気のあるパワートレイン、車種を持っている企業はダメージが少なくなっています。

本当に儲からなくなった中国

世界最大の自動車市場、中国では依然日本自動車メーカーの苦戦が続いています。BYDを中心とした中国メーカーの躍進、シェア拡大により、日本自動車メーカーの販売台数、シェアは大幅に低下。23年に入ってからは中国メーカーの価格攻勢が相次ぎ、日本自動車メーカーも値下げを実施。販売台数が出ない、1台当たりの利益も下がり、中国事業の採算性が大きく悪化しています。

その影響が分かりやすく、出ているのがトヨタとホンダの決算です。24年4-6月期、トヨタの中国事業は販売台数が41.1万台(前年同期比▲17.6%)、中国事業の利益=子会社営業利益+持分法適用会社投資損益(要するに現地合弁会社の利益)が595億円(前年同期比▲44.9%)と大幅に悪化。販売台数の落ち込みも大きいですが、それ以上に利益が大きく減っており、価格競争に巻き込まれた結果、1台当たりの収益性が落ちていることが読み取れます。ホンダは持分法による投資利益(ほぼ中国事業)が24年4-6月期は14億円(前年同期比▲96.7%)とギリギリ黒字のレベルにまで低下。通期見通しでは持分法による投資利益を▲400億円、▲300億円と実質赤字にまで、下方修正しました。

かつては台数、採算性共に優秀で、稼ぎ頭であった中国事業は今や「儲からない」市場へ変化。中国メーカーの成長が目覚しいこともあり、今後も苦戦を強いられる状況は変わらないでしょう。

日本自動車メーカーの牙城、ASEANで車が売れない

日本自動車メーカーが高いシェアを占めるASEANでも販売が伸び悩んでいます。新聞などの報道によくあるように、BEVを中心とした安価な中国メーカーの進出がシェアを奪っていることも事実ですが、それ以上に深刻なのは自動車全体の需要の減退です。

アメリカの利上げに伴い、グローバルでも金利の上昇が続く中で、自動車のローン金利も上昇。平均収入の多くないASEAN地域では自動車購入はローンを活用されています。金利が上昇したことにより、ローン審査が厳格化。自動車を購入したくても、ローン審査が通らずに購入ができず、新車全体の販売が伸び悩んでいます。その影響が最も大きい国がタイ。タイではピックアップトラックの需要が高く、日本自動車メーカーの収益の柱の一つとなってきました。しかし、24年に入ってからは前年同期比40%近い大幅減。他ASEAN地域でも国ごとに差はあるものの、金利上昇によるローン審査厳格化の構造は同じで、全需は伸びていません。高金利の中で経済回復も遅れており、ASEANの自動車需要が回復するのには時間がかかりそうです。

群を抜いてまずい自動車メーカーは…

日本自動車メーカーの中で今最も苦しんでいるのが日産です。日産は北米、中国、ASEANでの販売台数が多く、市況環境の変化を受けて業績は大幅に悪化。営業利益は10億円と何とか黒字を保ったものの、前年同期比▲99%の減益。23年に稼ぎ頭であった北米の市況がコロナ禍/半導体供給不足以前の環境に戻った+モデルチェンジでの旧型売り切りのために販売奨励金が大幅に増えたことが業績悪化の主要因。在庫の調整、マイナーチェンジ車の販売拡大で販売奨励金はピークアウト(7-9月期は横ばい、10-12月期で減)する計画となっていますが、目立った車種刷新は計画されておらず、実現できるかどうかは不透明。かつて日産は北米の販売奨励金が多く、構造改革(「NISSAN NEXT」)を行うことで、採算性を向上させましたが、現状は構造改革以前へ逆戻り。今掲げている改善策をどこまで実現できるかが今期の業績のカギとなります。

そして日産が「まずい」のは今回の決算発表で為替レートを155円に引き上げた点です。足元では円高が進み、140円台前半で推移しています。日産の為替感応度(1$為替が変化した際の業績への影響)は50億円ほどとなっており、このまま円高が進めば通期で▲500億円以上の影響が出る可能性があります。

次点でまずいのは三菱自動車。営業利益は▲97億円減益の355億円。主力市場と位置付けるASEANでの全需低下と北米を含めた競争激化による販売奨励金の増加が業績を悪化させています。ただし営業利益率は5.7%と悪いわけではありません。トライトンなどの主力車種をモデルチェンジさせている効果が出てくれば、採算性が改善する可能性はあります。ただし、北米/ASEANの市況は依然厳しい状況が予測され、23年ほどの業績を上げることは難しいでしょう。

歴史的な円安で業績をカバー

マツダは一見増収増益で好調な決算…に見えるのですが、内容の詳細を見ると、決して喜べる内容ではありません。アメリカの販売台数が伸び、過去最高を記録しているものの、営業利益の差異要因を見ると、他社同様に販売奨励金が大きく増え(531億円)、採算性は悪化。輸出が多い分、為替益が439億円あり、増益となりましたが、実力=内部要因で見ればマイナスとなっています。

そして心配なのはマツダが通期見通しで為替レートを1$143円⇒150円に引き上げた点。この為替レートの変動による増益で販売奨励金増をカバー=通期見通しでの営業利益は据え置きの計画となっていますが、足元では円安が進行しており、このままでは下方修正が出る可能性が高くなっています。CX-80が発表され、ラインナップが出そろった「ラージ商品群」がどれだけ売れるのかが今後の業績のカギを握るでしょう。

SUBARUも他社同様の傾向。増収増益ではあるものの、増益の中身は為替益であり、販売奨励金増により、実力ベースでの採算性は悪化しています。SUBARUは他社に比べ、販売奨励金は低いものの、前年は$800/台→$2050/台(+$1250)と大幅に増加、単純計算で約20万円/台、利益が減ったことになります。旧モデルの売り切りのために一時的に増加したこともありますが、いかに販売奨励金を抑えられるかが今後のポイント。

SUBARUは営業利益率は8.3%と他社と比較して高く、販売奨励金で多少の悪化があったとしても十分黒字を出せる体質にはなっています。ただし、SUBARUは北米での販売比率が8割以上をしめるため、北米一本足のリスクがあります。為替やアメリカ大統領選挙の動向、環境規制が強まるのか/緩和されるのかの影響は他社よりも大きく、SUBARUの今後を考えるには政治動向に注目していく必要いかなくてはいけません。

競争激化する北米での勝利条件

世界で見ても頭一つ抜けた絶対的王者であるトヨタの決算も厳しい内容。増収増益で過去最高を更新したものの、為替益起因の増益であり、内部要因では▲1000億円の減益。販売不振が伝えられる中国市場でも大きく利益を落としています。ただし、販売奨励金増による営業利益減は他社と比較すると影響は少なめ。これは現在アメリカでハイブリッドの人気が高まっており、ハイブリッド車は販売奨励金を増やさなくても売れる体制が整っていること。日産やマツダ、SUBARUはハイブリッド車種がない/もしくはラインナップが少なく、ICE(純内燃機関車)中心の販売となっており、競争が激化する中で、販売奨励金を出さないと売れませんが、ハイブリッド技術に優れたトヨタは別。ハイブリッドは前年同期比23.9%増、3か月だけで100万台に迫る台数になっており、トヨタの稼ぎ頭になっています。

ホンダの決算は増収増益で過去最高を更新し、好調。他社と比較しても販売奨励金増を受けず、販売価格の改定=値上げによりむしろ採算性は向上。この背景にあるのは北米でのハイブリッドが好調であること。ハイブリッドは内燃機関車に比べ、価格が高く、販売比率が増えた分、売上増につながります。長年の積み重ねによって、製造原価も抑えられ、採算が取れるパワートレインになっており、北米を中心としたハイブリッドの販売増により、四輪の稼ぐ力は大きく向上しました(営業利益率6.4%)。トヨタ、ホンダを見るとわかるように、北米を攻略するためには、競争力のあるハイブリッドのラインナップ拡充は不可欠。今後、トヨタ、ホンダ以外もハイブリッド車種を早期に投入、販売台数を増やせるのかが今期以降の業績の「勝ち負け」を決めていくでしょう。

ホンダで心配なのは、主力市場である中国での大幅な販売の落ち込みです。工場での人員削減を含めた構造改革が進められていますが、中国メーカーが台頭する中で、いかにシェアを守り切れるのか、そして中国での需要に見合った再編が直近最も大きな課題となっています。

頭一つ抜けた好決算だったのは

日本自動車メーカー全体として、23年度決算からすれば、苦しい内容となった中で、唯一手放しで好決算だと言い切れるのがスズキです。4期連続の増収増益で営業利益率は10%超え。販売台数がグローバル全地域で増えており、文句のつけようがありません。スズキは販売台数は多いものの。リスクの高いアメリカ、中国での販売がなく、他の地域で着実に台数を伸ばしています。特に主力市場と位置付けるインドではTOPシェアを維持し、今後インド市場全体が拡大を続ける中で、スズキも同様に台数を増やしていくことは間違いありません(すでに増産への大規模工場投資を発表済)。

インドに続く市場としてアフリカの開拓やインド生産の車種をグローバルへ展開、日本への輸出も始まっており、インドを軸としたスズキの伸びしろは日本自動車メーカー随一。儲かりにくいとされる小型車中心のラインナップにも関わらず、営業利益率10%超えは海外を含めて、類するメーカーはありません。「小・少・軽・短・美」を掲げ、独自路線を貫き、好業績をあげるスズキは採算性、将来性でみれば、トヨタに匹敵するほどの自動車メーカーとなっています。

***

自動車メーカーでは23年度の状況からは一変し、北米、中国を中心とした競争激化により、各社の勝ち負けが出始めた24年度。足元では円高が進行しつつあり、真の実力が試される一年に。EVシフトに向け、十分な利益を確保し、準備を整える必要がある中で、現段階で採算性悪化、赤字になると、投資も抑制され、将来的な競争力を失うことになりかねません。ただ、業績が悪化したと言っても、依然黒字の企業が大半であり、営業利益率も低いわけではありません。自動車メーカー全体が儲かるボーナスステージが終わった中で、日本自動車メーカーはこれからも稼ぎ続けることができるのか。今後の販売動向(特に北米、中国)と各地域での販売戦略(特にハイブリッド車種投入)に注目です。

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