ぶっちゃけBEVとHEV、CO2排出が少ないのはどっちなんですか?

自動車業界の最新ニュース解説、おすすめレポ、本を紹介するニュースレター、モビイマ!第31号。脱炭素が叫ばれる2021年。EVへの移行を促す意見が世間では主流…ただ現段階で実際EVは環境に優しいのでしょうか。HEVとEVのCO2排出について比較しました!
カッパッパ 2021.10.21
誰でも

ご安全に!

今回は「脱炭素、実際BEVとHEV、どっちがCO2排出少ないのか」について解説します。2021年、新聞を開けば、毎回目にする脱炭素、そしてEVシフト。日本はEVシフトに遅れがちと批判され、自工会や特にトヨタの戦略には遅れを指摘されることが多くなっています。ただ、実際は電力の在り方によって本当にCO2排出が少ないかどうかは異なる…実際に手を動かして、CO2排出ってどうなっているのだろうと調べてみました。(以前執筆したnoteの加筆、修正版になります)

これからの自動車業界のカギを握る脱炭素、この記事でより理解が深まればと思います。

それではモビイマ!Vol31スタートです。

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今回のモビイマ!では一番最後に重大発表があります。最後まで読んでいただけると嬉しいです。

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1.モビコラム

モビコラムでは、カッパッパが自動車業界最新トレンドを独自の視点と切り口で語るコラムです。かなり力を入れた内容で仕事/投資に役立つこと間違いなし!

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CO2排出の語るうえで欠かせない「LCA」ってなに?

https://blog.jama.or.jp/?p=261

https://blog.jama.or.jp/?p=261

LCAとはライフサイクルアセスメント、自動車においては製造〜廃車まで全ての期間での環境評価です。自動車で、これまで注目されてきたのは走行時のCO2排出でした。EVであれば、電気で走行するので走行時にはCO2を排出しない。確かにそうなのですが、電気の元となる発電ではCO2が発生しています。再生エネルギーや原子力ではCO2は発生しませんが、日本の主力約75%を占める火力発電では化石燃料が使われ、CO2を排出しています。またEVでは搭載する電池を作る際に大量の電力が必要となります。廃車の時もバッテリーの処理のために電力が必要です。一見、CO2を排出しないように見えるEVでも実際は製造/発電/廃車段階でCO2を発生させています。

EVにすれば、CO2排出の問題は解決といった簡単な話ではない

実は日本のHEV技術は世界でも飛び抜けており、走行時のCO2排出量はガソリン車/他の国のクルマと比べ、大変少なくなっています。EVとHEV、LCAにおいてCO2排出が少ないのはどちらなのでしょう?*データの出典元について今回検証するにあたり、CO2の排出に関してはEV関連の記事を非常に多く発信されている「EVスマートブログ」さんの中でのデータを使用させていただきました。CO2排出に関する基本的なデータがまとまっています。どのデータを使用したのかは各データを出す際に提示します。

製造時のCO2排出

今回はEVは代表車としてテスラ、モデル3SR+(搭載電池50kwh)、HEVはトヨタ、プリウス(搭載電池1.3kWh)にて比較します。データは「マツダさんの Well To Wheel 計算は正しく、電気自動車のライフサイクルCO2排出はガソリン車より多いのか?」の記事を参照しています。まずはクルマが製造される際のCO2排出量、大きく分けてシャーシ、エンジン、モーター、インバーター。それぞれで排出されるCO2量は下記のとおりです。

シャーシ:4219kgエンジン:1274kgモーター:1070kg(EVにはなし)インバーター:641kg→プリウス:7204kg→モデル3:5930kg

*EVにはエンジンはありませんので製造時のCO2排出は除きます。次に電池生産時の排出量です。EVスマートブログさんが採用しているIVL2019という論文での中央値、1kWhあたり83.5kgで計算しましょう。

プリウス:搭載電池1.3kWh→1.3×83.5=108.55kgモデル3:搭載電池50kWh→50×83.5=4175kg

製造時のCO2排出量、車両と電池を足すと

プリウス:7204+108.55=7312.55kgモデル3:5930+4175=10105kg

現段階では製造時、EV、モデル3の方がCO2排出量は2792.55kg多いのが分かります。

メンテナンス/走行時のCO2排出量

実際にユーザーに車が届けられてから、どれくらいのCO2排出があるのか見ていきましょう。まずはメンテナンスにかかるCO2排出量です。上記の記事の中にメンテナンスでのCO2排出量も含まれています。

タイヤ:108kg/40000km蓄電池:19.5kg/50000kmエンジンオイル:3.22kg/10000kmクーラント:7.03kg/27000km

このうちエンジンオイルとクーラントに関してはEVでは必要がないため、メンテナンス不要です。1kmあたりのCO2排出量(kg)に換算すると

プリウス:0.0027(タイヤ)+0.0004(蓄電池)+0.0003(エンジンオイル)+0.0003(クーラント)=0.0037(kg/km)モデル3:0.0027(タイヤ)+0.0004(蓄電池)=0.0031(kg/km)

となります。そして走行時の燃料/電力として使われるCO2排出量。記事「岡崎五朗氏『EVシフトは誰のため? その裏に潜む投資マネーとユーザー無視の実態』の指摘って本当?」からの数値では

プリウス:97g/km→0.097kg/kmモデル3:69g/km→0.069kg/km

日本での火力発電75%の電力で上記排出量となります。メンテナンスと走行時の排出量を足すと

プリウス: 0.0037+0.097=0.1007kg/kmモデル3:0.0031+0.069=0.0721kg/km

現段階ではユーザー使用段階で、HEV、プリウスの方がCO2排出量は0.028kg(28g)/km多いのが分かります。

廃車時のCO2排出量

車を廃車にするときのCO2排出量についても確認しましょう。バッテリーの分解のためにCO2が排出されます。IVL 2017のデータによれば15kg-CO2eq/kWhとのことですので、この数字で計算してみましょう。

プリウス:搭載電池1.3kWh→1.3×15=19.5kgモデル3:搭載電池50kWh→50×15=750kg

廃車時のCO2排出量ではEV、モデル3の方が730.5kg多いことがわかりました。

LCAでのCO2排出量比較

それでは製造〜廃車まで全てのデータが揃ったので、LCAでのCO2排出を比較してみましょう。

ユーザー使用時にCO2排出の少ないEV、モデル3ですが、製造/廃車時にCO2排出量が多いため、HEVのプリウスの排出量を逆転するには一定の走行距離が必要です。逆転するのは12万kmを超えてから。一般的な乗用車の寿命が10万kmとすると

現段階ではLCAにおいては HEVの方がCO2排出量が少ない

また他の車種も比較してみましょう。プリウスよりも燃費の良いヤリスHEVでは85g/kmの排出量となるため、モデル3が逆転できるのは22万Kmになります。また電池の容量を大きくしたテスラ、モデル3ロングレンジでは製造/廃車時のCO2排出量が増加、電費も悪化(モデル3SR EPA141→モデル3LR EPA130)するため、プリウスを逆転できるのは26万Kmになります。

他の車種との比較も踏まえ、現段階ではLCAにおいてはHEVの方がCO2排出量は少ないのは間違いありません。「CO2を排出量しないからEV」という選択は現段階では間違っているといえるでしょう。

EVがHEVでLCAで逆転するために

現段階ではHEVが優位であることはわかりました。ただLCAにおいて改善代が大きいのはEVです。

①製造時のCO2排出量を減らす→再生エネルギーを使い生産する
②電力の脱炭素化を進める→再生エネルギーの促進、火力発電の脱炭素化

こうした取り組みが進むことによって、LCAでのCO2排出量を減らすことができHEVを逆転することができます。

しかし、調べてみてわかったのですが、日本、トヨタのHEVの燃費の良さはすさまじいです。

ヤリスHEVの燃費、CO2排出量を見るとEVがLCAで勝つためには技術革新、電力構成の変更が必要になり、一朝一夕でできるものだとは思えません。

ただ実際のLCA排出はわからない

ここまで一生懸命、手で計算してきたんですが、実はこのLCAでのCO2排出は使用する前提条件により、大きく計算が異なり、ニュースや論文間でも整合が取れていません

先ほど出たマツダ論文は古いデータを使っているためにガソリン車が有利になっているという指摘があり、直近でた国際エネルギー機関(IEA)の試算では「世界のほぼすべての地域で電気自動車(EV)がガソリン車より少なくなる」とのことですが、「結論が変わった背景には前提条件の見直し(中略)10年・15万キロメートルから20年・20万キロに改めた。」とEVに有利になるよう条件を変更しています。

日本の最近のレポートでは電力中央研究所の「電動車と内燃機関車の製造と走行に伴うGHG排出量評価-事業用火力発電比率に応じた比較分析-」があり、こちらでもEVが排出量で有利となっているのですが、HEVの燃費が17.0Km/ℓとなっていて、プリウス、ヤリスHEVだと全然話違ってくるやんけという設定。

お互いが有利なデータを引っ張ってくるので、何がなんやら(検証コストも高い)。正直なところ、多分現段階でのLCAは「ヤリスHEV>プリウス>EV(50Kwhクラス)>EV(80Kwhクラス)≒一般的なHEV」くらいなのではないでしょうか。

ちなみに一応、現段階でも公式な指標として米国で自動車全般に用いられるアルゴンヌ国研のGREET(The Greenhouse gases, Regulated Emissions, and Energy use in Technologies Model)モデルとISO14040/14044でのLCAの規格があります。(トヨタも実はLCAでのCO2排出は計算をしていたりします。)

ただ国際間で定められたLCAについては今後各国間で協議する見込みであり、この基準作りで不利にならないよう日本はロビー活動すべきなんですが、このあたりは欧州が巧みなので心配…

とは言え、なんだかんだで最終はEV

現段階でHEVの方が環境に良いのだからEVをないがしろにしてよいというわけではありません。世界では欧州、中国では厳しい環境規制が始まり、アメリカでもより環境規制は強化されていきます。

10年後の主流は間違いなくEVに移っていくはずです。世界で日本メーカーが戦い続けるためには戦略的にEVに取り組んでいく必要があります。日産が待望のEV「アリア」を販売し、ホンダがEVシフトを鮮明に、トヨタも電動化戦略を発信。日本各社が今後どのようにEVを販売/生産していくのか。2030年にどのようになっているのか。

EVには充電設備、供給網といった問題もあります。自工会会長、トヨタ社長の豊田章男氏が幾度となく発信しているように

「政策的財政的支援を要請したい」
「国のエネルギー政策そのものへの対応」

日本全体としてのサポートが必要です。

日本が世界に誇るHEV。実は代表車のプリウスは3代目まで赤字だったと言われています。赤字であっても生産を続け、技術を進歩させてきたことで現在のHEVの圧倒的優位性があります。

世界に誇れる日本自動車産業を維持するために、HEVを含めた先を見据えた新車開発戦略が求められています。

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ここで重大発表があります。

こちらニュースレター「クルマのイマがわかる モビイマ!」11月より有料化することにしました。ただしすべてというわけではなく、現在、週2回⇒月8回配信のうち、半分の週1回、月4回については無料配信、残りの半分週1回、月4回については有料配信とさせていただく予定です。

じつは「モビイマ!」1記事に約3時間、2記事で週6時間ほど書いていたのですが、初めて5ヵ月、さすがにこのまま無料で同じペースで配信し続けるのはモチベーション維持が難しい+モビイマ!の中でいろいろとやりたい企画があり、この度有料化することにしました。有料化するに合わせ、現在のモビイマ!に+αの価値も提供予定です。有料化するからというわけではないのですが、11月以降これまで以上に充実した情報発信をお送りする予定です。

詳細については次週、10/25の配信にてお知らせします。

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