【自動車業界、最大の危機?】トヨタですら手を染めた『型式認証不正』が明らかにする日本自動車業界の苦境と将来

2023年明らかになったダイハツの認証不正問題。その後、同様の事例がないか各社が調査を実施した結果、今回新たな不正が発覚。トヨタを含む5社の不正が発覚し、国内で生産する一部の車種が生産/出荷停止する事態となりました、
今回の認証不正問題とはどのようなものか。そして何が問題なのか詳細に解説します。
カッパッパ 2024.06.06
誰でも

世界でも有数の販売シェアを持ち、グローバルで高い競争力を維持してきた日本自動車産業。長年積み上げてきた「高い品質と安全性」のブランドイメージが日本車の競争力を高め、世界に躍進する原動力となってきました。

ただその「高い品質と安全性」の前提が大きく崩れ、根幹が揺らぎ始めています。2023年に発覚したダイハツの認証不正問題。その後、他社も同様の不正を行っていないか、追加調査を行った結果、新たな不正が発覚。トヨタを含む5社で型式認証での不正が発覚。ダイハツだけでなく、日本自動車業界全体で「型式認証不正」がまん延していたことが分かりました。

トヨタですら犯していた「型式認証不正」とは一体なにか。それはどんな不正でなぜ行われたのか、今後どのような影響があるのか。これさえ読めば「型式認証不正」問題がばっちりわかる、詳細に解説します。

そもそも「型式認証」とは何か

今回、不正が起きた「型式認証」とは一体何なのでしょう。

「型式認証」とは自動車メーカーが新型の自動車を販売を行う場合に、予め国土交通大臣に申請又を行い、保安基準への適合性等について審査を受ける制度です。実車によるブレーキ試験等の基準適合性審査と品質管理(均一性)の審査が行われます。認証を取ることができれば、新規検査時の現車提示が省略されます(取っていなければ1台ごとに検査しなくてはいけない)。多量のクルマを作る自動車メーカーにとっては欠かすことのできない必要不可欠な制度です。自動車を開発する上で、型式認証を取得することが一つのマイルストーンになっています。

トヨタを含む5社で新たに発覚した不正

23年にダイハツにて型式認証での不正が発覚。日野自動車や豊田自動織機でもエンジンでの不正が行われていたことが分かり、相次ぐ不正を受けて、国土交通省が国内85社の自動車関連メーカーに不正の調査を要求。結果、今回、型式認証において、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの計5社で不正が確認されました。

型式指定の認証は大きく分類すると3パターンの方法があります。①審査官の立ち合い、②メーカー内での認証試験、➂開発試験でのデータを認証データとして活用。このうち②、➂において不正が行われていたことが発覚しました。②、➂はいわばメーカーからの自己申告。ただし、法規にのっとった手順で実施されなくてはなりません。この「法規にのっとった」対応ができていない案件があり、今回不正として認められました

トヨタ:生産中を含む7車種で乗員保護試験、衝突試験、エンジン出力試験にて不正

トヨタでは7車種で国が定めた基準と異なる方法で試験を実施していたことが判明。対象は現在生産中「カローラ フィールダー」「カローラ アクシオ」「ヤリス クロス」(歩行者・乗員保護試験でのデータ不備)、生産が終了している「クラウン」「アイシス」「シエンタ」(衝突試験等の試験方法の誤り)、「RX」(エンジン出力試験の改ざん)。

「歩行者・乗員保護試験でのデータ不備」ではエアバッグの性能試験において展開をタイマーにて着火。認証試験よりも厳しい条件となる設定にて実施してはいるものの、自動着火がするかどうかも含めてが認証試験において、重要であり、決して行ってよいものではありません。

「衝突試験等の試験方法の誤り」では法規と異なる角度/重量での試験や測定位置が異なる(片側→両側分として使用)データの使用が発覚。選定された測定位置にて認証試験は実施が義務付けられており、こちらも重大な違反です。

「エンジン出力試験の改ざん」では試験時に狙った出力が得られなかったため、コンピューター制御を調整し、再度、試験をしたデータを使用。これは基準を満たせなかったために、実施された明らかに意図的な違反であり、問題は極めて深刻です。

ホンダの不正内容:生産停止の34車種で3種類の不正が発覚

今回、最も不正件数が最も多く報告されたのがホンダです。合計で34車種、95型式で不正が行われ、対象は435万台にも及びます。

不正の種類は3種。一つ目は「騒音試験における不適切事案」。これは騒音試験時、目標諸元値±2%の範囲で定められているのに対し、重量が大きく範囲を超えた試験車両で実施したもの。法規より厳しい条件設定で測定されていますが、車重を虚偽記載、そして決められた範囲からは逸脱しており、これも「不正」にあたります。

二つ目は「原動機車載出力試験(ガソリン機関)、電動機最高出力及び定格出力試験における不適切事案」。これは車両の最高出力値及び最大トルク値を測定→試験成績書に記載する際に、すでに型式指定取得済みの同一諸元のエンジンや電動機の諸元値に近づけるように書き換えを行ったもの。実際には該当エンジンで実際に試験をする必要があるにもかかわらず、他のデータをもとに書き換えた不正になります。

三つ目は「原動機車載出力試験(ガソリン機関)における不適切事案」。法規では発電機を発電して試験を実施することが規定されているのですが、発電せずに試験を実施。過去に実施した同一諸元のエンジンの試験結果から得られた補正値を用いて数値を算出し、試験結果として提出したもの。実際には試験が必要だったにも関わらず、計算上の算出したデータを採用した不正になります。

マツダの不正内容:過去生産の3車種、現行生産車の2車種で衝突試験、エンジン出力試験の不正

続いてマツダの不正は「アテンザ」「アクセラ」「MAZDA6」(過去生産車3車種)での衝突試験における試験車両の不正加工と、「ロードスターRF」「MAZDA2」(現行生産車2車種)でエンジン出力試験での制御ソフトの書き換えの2点。

「衝突試験における試験車両の不正加工」ではダイハツ、トヨタと同様に前面衝突時の認証試験において、エアバッグを車載センサーの衝突検知による自然起爆ではなく、外部装置を用いて時間指定で起爆させた不正。モデルチェンジにあたり、設計基準に合わせた検証を行うため、時間指定起爆が良いと判断して実施したとありますが、上述の通り自動着火がするかどうかも含めてが重要であり、時間指定起爆は採用してはいけません。

「エンジン出力試験での制御ソフトの書き換え」ではエンジン出力に対する認証試験で、量産車両と同一状態のエンジン制御ソフトにより出力試験を行うべきところ、制御ソフトにて点火時期補正機能の一部を停止させ試験を実施。実車では走行風が入るのですが、試験では空気が滞留するため、吸気温度が上昇→点火補正機能が働くため、その部分を補正したと説明がありました。実車の環境とは異なるとしても、試験条件は法規で定められており、変更して良いものではありません。

なぜ「型式認証不正」は行われたのか

会見を行ったトヨタ、ホンダ、マツダの認証試験への言及で明らかになったのは自動車メーカー、現場での独自解釈が不正を生み出している点です。認証試験では試験内容が法規で定められており、そのプロセスに沿って基準をクリアしなくてはいけません。今回起こった不正の多くは「認証試験よりも厳しい基準だから良いだろう」という判断のもと、データが採用されています。確かに実際の結果からすれば、厳しい基準で行われているために問題ないのかもしれませんが、試験において重要なのは「正規のプロセス」。結果はどうあれ、プロセスから外れたものは不正になります。

マツダでは「実車の状況に合わせて試験した」として不正が行われていますが、認証試験は実車環境ではなく、決められた基準の中で実施しなくてはいけません。「本来の姿に合わせたから問題ない」といった独自解釈が不正=正規プロセスを逸脱したデータの採用を生み出したと言えます。

またホンダでは法規基準よりも厳しいデータを採用した背景に「工数が減ること」が挙げられています。開発段階では認証試験とは異なるより厳しい条件でテストを行っており、そこで合格となっているのだから、認証試験試験は問題ない→認証試験の条件で行うと再度試験を行う必要があるため、工数を減らすために開発段階の厳しいデータを採用しようという考えです。工数を削減したい気持ちはわかりますが、何度も重ねていうように重要なのは正規のプロセスにのっとっているかどうか。正規のプロセスを守る意識が不足していたことは間違いないでしょう。

トヨタの会見では、法規を巡る仕事は多岐に渡り、全体を理解している人がいない+数も膨大(10年で50モデル、7000件)+年々法規が変わり、新しい対応が迫られ、認証業務の難しさが挙げられていました。例え難易度が高いとしても、認証制度で満たすするためには、決められたプロセスに沿って基準をクリアしなくてはいけません。今回トヨタでは「エンジン出力試験の改ざん」において、試験にクリアできなかったために意図的にデータが改ざんされています。認証試験の独自解釈では済まない、他とは一線を画す不正です。他の不正も含めて、再発防止をするために仕事の「しくみ」を見直す、作り上げていく必要があります。認証試験への対応が莫大になる中で意図的、意図的でないもの含め、不正は起こるものだという前提に立って、不正を発見し、いかに流出させないかの視点で対策をうつ必要があるでしょう。

型式認証が持つ意味と意義

量産する上で1台1台の検査は現実的ではありません。事前の認証制度によって安全、品質を担保する必要があり、欠かすことのできないプロセスで自動車メーカーには遵守が求められます。しかしながら、この型式認証が自動車メーカーにとって大きな負担になっている現実があります。年々法規は追加、強化され、その法規対応に非常に多くのリソースがかけられています。型式認証制度の前提にあるのは「自動車が決められた安全、品質を保っているかどうか」。その確認のために正規のプロセスが決められていますが、果たしてそのプロセスが妥当かどうかの検討、また柔軟性にかけているのではないかという指摘もあります。

ただ正規のプロセスが妥当でないからといって、不正が行われたことを正当化することはできません。言い方は悪いですが「悪法もまた法」であり、基準として決まっている以上、遵守しなくてはいけません。もし妥当性を問うのであれば、基準の作成段階で意見を挙げるべきです。今後国土交通省と自動車メーカーは議論をし、型式認証制度のプロセスの妥当性について議論を行っていく必要があるでしょう。

認証不正がもたらす影響

今回の不正が発覚した車両は各社の自己調査で法規を満たしていることが確認されており、消費者へ安全、品質へ影響ないという発表がされています。ただし、型式認証の正規プロセスを経ているわけではなく、あくまでも自己申告。現在生産中の自動車は再度正規のプロセスにのっとった型式認証の試験を行い、問題ないことを示す必要があります。

現行量産中のトヨタ、「ヤリスクロス」「カローラアクシオ/フィールダー」、マツダ「MAZDA2」「ロードスター」は生産を一時停止。具体的な再会時期は未定です。消費者にとっては欲しい車が手に入らない、自動車メーカーと仕入先にとっては売上が減り、生産調整を行っていく厳しい状況。まずはいつ型式認証のOKが出て生産が再開されるのかが最初のポイントとなります。(ダイハツの場合は問題が起きてから1.5ヶ月が最短での生産再開)

そして、今回の不正を受けて、型式認証制度がどのように変わるのかが次の大きなポイントです。ダイハツ、日野自動車、豊田自動織機に加えて、今回更に5社で発覚した新たな不正。不正がまん延していることは事実であり、自動車業界は襟を正し、再発防止に努める必要があります

ただし、一方で型式認証制度が自動車メーカーにとって大きな負担となっていることも事実。年々法規が変更、強化される中で、独自解釈がなされ、正規プロセスを守れていない不正が生まれました。度重なる不正を受けて、再発防止のために認証制度がより厳しくチェックされるようになれば更に工数は増え、自動車開発の期間も長くなります。法規は人/クルマの安全を守るためにあるもの。その目的を果たすための適切なプロセスは何か。目的を十分に果たした(国際的な基準にも同期)上で、工数が少ないプロセスとなる検証が進められるべきです。

安全が1番なことは言うまでもありません。ただし、安直に規制を強化するだけでは結果として自動車メーカーの競争力を奪うことにもなりかねません。今回の不正により型式認証制度がどのように変わるのかが今後の自動車メーカーの将来を決めるターニングポイントにもなりえるのです。

***

相次ぐの型式認証不正発覚によって、日本メーカーが築き上げた「高い安全性と品質」というブランドイメージは大きく毀損されました。繰り返しますが、乗員の安全を担保する型式認証において不正が行われたことは決して許されることではありません。例え、試験よりも厳しい基準で確認が行われていたとしても、正規プロセスを経なければ、「不正」。また意図的な改ざんは悪質であり、断固として認められるものではありません。日本自動車業界の屋台骨である「信頼」が揺らぎ始めています。

もう一度信頼を取り戻すためには「あるべき姿」、正しい手順で試験を実施し、その合格をもって開発を進める/新車を販売する。当たり前に見えるプロセスをもう一度、真摯に怠ることなく、実施していくことが必要です。

自動車メーカー各社は24年3月期、過去最高を更新する好業績となりました。好業績の今だからこそ、足元の問題に目を向け、あるべき姿に修正するためにコストをかけることができるはずです。日本自動車業界全体で「根本の信頼を取り戻す」足場固めに向け、型式認証を初めとする開発プロセスが正しく行われているかの検証、そして国土交通省も巻き込んだ型式認証制度の「あるべき姿」を巡る検討が求められています。

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