損害費用2000億⁉GM大規模リコールから考えるEV一辺倒の“危うさ”

自動車業界の最新ニュース解説、おすすめレポ、本を紹介するニュースレター、モビイマ!第19号。【コラム】
カッパッパ 2021.08.25
誰でも

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クルマのイマがわかる「モビイマ!」

( 2021年8月26日発行 )

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ご安全に!

今回は先週飛び込んできたGM大規模リコール問題からEVの現状についてまとめました。

相変わらずなんですが、書き出したら量が多くなる…

その分どこよりも詳しい内容で「EVのイマが分かる」自信をもって発信できる記事になりました。

ボリュームは多くなりましたが、読んでいただけると大変うれしいです!

【目次】

1. モビコラム

  • 損害費用2000億⁉GM大規模リコールから考えるEV一辺倒の“危うさ

1.モビコラム「損害費用2000億⁉GM大規模リコールから考えるEV一辺倒の“危うさ」

モビコラムでは、カッパッパが自動車業界最新トレンドを独自の視点と切り口で語るコラムです。かなり力を入れた内容で仕事/投資に役立つこと間違いなし!

***

世界中でEVシフトは進むけれど…

「世はまさに大EV時代」

と言わんばかりに2021年、連日EVのニュースが入ってきます。

世界中で進む環境規制、カーボンニュートラル。世界各国ではガソリン車、内燃機関車廃止の規制が始まっています。欧州を皮切りに、中国、アメリカでも規制は進み、日本でも2035年には100%の電動化、東京都では2030年までにと前倒しの計画も立てられています。

こうした規制に対し「EVこそが脱炭素の要」であるとされ、世界各地で開発、販売が加速。アメリカ、テスラの株価は時価総額で自動車業界最高となり、RivianなどのEVベンチャーも次々と新車計画を発表。中国新興EVメーカーも先進的なモデルを投入し、電気メーカーもEV事業に参入。既存自動車メーカー各社も電動化計画を前倒し。EVシフトが鮮明になっています。

https://newswitch.jp/p/28398

https://newswitch.jp/p/28398

果たしてこのEVシフト、実際に上手くいく=経営として成り立つ、利益が上げられるのか。EVはガソリン車と部品構成が大きく異なり、これまで自動車メーカーが長期間、大規模投資を行い研究開発を進め、高い参入障壁となっていたエンジンが比較的参入障壁の低いモーターや電池に変わり、コスト構造が大きく変わります。

EVは果たして儲かる商売なのか?

そんな中飛び込んできたのがこのニュースです。

GMが発売しているのEV「シボレー・ボルト」。これまで販売されてきた大半の車両をリコール。その金額はリコールとして過去最大レベル、18億ドル(約2000億円)の費用が発生する見込みです。

なぜこれほど多額のリコールが発生したのか。その理由はEVの要部品「バッテリー」です。

今回はこのリコール問題から、今現在EVが本当に儲かるのか?抱えるリスクについて読み解いていきます。

「シボレー・ボルト」はどんなクルマ?

まず今回リコールの対象となったEV「シボレー・ボルト」とはどんなクルマなのでしょう?

https://jp.techcrunch.com/2021/08/21/2021-08-20-general-motors-issues-third-recall-for-chevrolet-bolt-evs-citing-rare-battery-defects/

https://jp.techcrunch.com/2021/08/21/2021-08-20-general-motors-issues-third-recall-for-chevrolet-bolt-evs-citing-rare-battery-defects/

シボレー・ボルト(Chevrolet Bolt )は、ゼネラルモーターズのブランドシボレーがLGグループと共同開発したサブコンパクトクラスの5ドアハッチバックタイプの電気自動車で[3]、2017年モデルとしての販売が2016年末に予定されている[4]。シボレー・ボルト EV(Chevrolet Bolt EV )とも呼ばれる。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%9C%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%88EV

「シボレー・ボルト」はGMより販売された、一般的には「Bセグメント」に分類されるハッチバック。競合する車種が日産のEV「リーフ」と言われると想像しやすいと思います。

GMの中でのEV重要戦略車種の1つであり、2016年から生産を開始。補助金適用前のボルトEVの2017年モデルの販売価格は、37,495ドル~とテスラなどに比べて価格が低く、また航続距離も383 Kmと5万ドル未満の車両価格のEVの中で唯一EPA基準で航続距離が200マイル(約320 km)を超えた車種で、発売当時雑誌などでも数々の賞を受賞しました。

採用しているバッテリーは容量60Kwh(2017年モデル)で、韓国、LG化学製

2015年10月、GMはLG化学から、自動車1台あたり最低8,700ドルの収益をもたらす単価設定である1kWhあたり145ドルの単価でボルトのバッテリーの電池を購入すると発表した[44]。伝えられるところによれば、バッテリーパックを納入する事業者の選定の際、LG化学はその時点で同業他社のライバルが示した単価より1kWhあたり約100ドル安い単価を提示したという
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B7%E3%83%9C%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9C%E3%83%AB%E3%83%88EV

なお、こちらEVは「Bolt」なのですが、同じシボレーブランドでPHVとして「Volt」という車種も出していて、日本語だと同じ「ボルト」に。GMもややこしいよねと認めていて、もう少し名前、考えた方がよかったのではエピソードがあります。

「シボレー・ボルト」リコールの経緯と要因

シボレー・ボルト」はバッテリーが起因となり、今回が3回目のリコール

一体何が問題なのか。リコールの内容と経緯についてまとめました。

まずリコールの原因となった異常。それは「バッテリー起因による火災の発生」です。2017~2019年に製造した5台に火災が発生。調査の結果、バッテリーの不具合によるものだとわかりました。

GMの広報担当者は、デトロイト・ニュースに対し「これらの生産年の車両に搭載されている一部バッテリーモジュールには、まれに製造上の欠陥が含まれる」と述べました。この欠陥は「なんらかの熱の伝播やセル内のショートによって、火災を起こす可能性がある 」
https://japanese.engadget.com/chevy-bolt-battery-fix-040056250.html

充電時に100%まで充電すると火災が発生することが分かったため、GMはシボレー・ボルトの所有者に対し、ソフト修正により充電率を100%にならないよう90%に抑える対策実施。(なおこの変更により、充電率が下がるため、航続距離が落ちるため、集団訴訟の可能性があったり…)

しかし、ソフトウェアを改修した後でも火災が発生。少なくても2件発生し、根本的な解決になっていないことが分かりました。

21年7月、17-19年型のボルト、6万8667台を再リコールへ。ソフトウェアの改修では問題が解決しないため、問題となっているバッテリーそのものが交換されることに。

なお交換までは火災の危険があるため

リコールの準備ができるまでの緩和策として、1) 充電の上限が 90 % となるよう設定する 2) 可能な限り、使用後はその都度充電し、充電残量が 70 マイル (約 27 %) 未満にならないように注意する 3) 充電完了後は屋外に駐車し、一晩中充電したままにしない、ことを顧客に求めている。

とユーザーにとって、面倒くさいお願いをしており、これはちょっと辛い内容…

あくまでも19年型までとしていたこちら異常でしたが、今週に入って状況が一変。現在販売されている最新型も異常が発生することが分かり、リコール対象に。2019年型のBolt EVが9335台と、2020~2022年型のBolt EVおよびBolt EUVが6万3683台が追加。しかも販売も休止。これまで販売してきた大半の「ボルト」がリコール対象となりました。

そして驚くべきはリコールの費用。バッテリーはEVの中で最も高価な部品であり、交換すると…1台100万円以上。

2回目、3回目のリコール合計で18億ドル。日本円で約2000億円の巨額リコールに発展しました。

なぜバッテリーの異常で火災が発生するのか

あくまでもイメージです

あくまでもイメージです

今回ボルトのバッテリーなぜ異常が発生するのでしょう。

In rare circumstances, the batteries supplied to GM for these vehicles may have two manufacturing defects – a torn anode tab and folded separator – present in the same battery cell, which increases the risk of fire. 

GMに供給されたこれらの車両用バッテリーには、まれに同一バッテリーセル内に、破損した陽極タブと折れたセパレーターという2つの製造上の欠陥が存在する可能性があり、これによって火災の危険性が高まる」とのこと。

よくわからないのでTwitterの力を駆使して有識者の方に聞いてみた回答がこちら。

やけに電池が好きな孫悟空
@denchigoku
@kappapa03 今回ぇ問題ぇとなった電池は、こんな感じで正極と負極のシートを何層も積み重ねた構造をしてる。
セパレータは正極と負極の間に挟む。
タブは負極でいうと積み重ねた銅箔(参考図だと、ちょっこと飛び出た茶色のとこ)に溶接する。
積層・溶接時に負荷がかかってグチャッとなったっちゅうことだな。
2021/08/24 22:17
4Retweet 9Likes
ぽん二郎🗼
@jirokuitai_pon
@denchigoku @kappapa03 私がよく言ってる「EVは部品が少ないけど電極部品は年産数億枚だよ!」を体現しているトラブルですね…積層プロセスはあまり詳しく無いですが、もうこの手の不良は防ぎようが無いと思うんですよね…
2021/08/24 22:18
1Retweet 1Likes

ありがとう、Twitter。バッテリーはまだまだ過渡期。現状製造の過程でこうしたトラブルは起こりえます。

異常はボルトだけじゃない

出所:Hyundai Motor

出所:Hyundai Motor

じつはLG化学起因でのバッテリートラブルはボルトだけではありません。

韓国の現代自動車が米国、欧州で販売したEV「コナ・エレクトリック」と「アイオニック」などで火災が相次ぎ、計8万1700台のリコール。費用は約1000億円に。

VWのID.3でも火災が発生し、全焼。

IDは充電を終えた状態だった。運転手は3歳の子どもを乗せて座席に座った状態で、後輪の方から出ている煙を確認した。運転手と子どもはすぐに車から出て人命被害はなかったが、車両は全焼した。フォルクスワーゲンは火災事故に関する独自の調査に着手した。

GMのボルトだけでなく、他社でも問題が発生しており、LG化学のバッテリーそのものの品質が問われる事態になっています。

令和2年度における自動車のリコール届出は、国産車と輸入車を合わせて、総届出件数384件(対前年度31件減)、総対象台数6,610,555台(対前年度3,923,937台減)でした。

日本でも年間384件のリコールが発生。異常が発生すること自体は問題ですが、異常を隠さずにリコールが行われることは、自動車を安全に運転するためには必要なことです。

ただ今回の件で特筆すべきなのはその多額なリコール費用です。

部品交換費用が高すぎる電池の品質リスク

今回のリコールは正直なところ、台数はそれほど多くありません。合計しても14万台程度。しかしながら、そのリコール費用は莫大な2000億。1台あたり100万を超える超高額リコールです。

これほどまで大きくなると業績への影響も多大に。すでに2回目リコール費用は4-6月期の決算に織り込まれていますが、追加の1100億円はまだ業績には未反映。GMは損害賠償を求めることを発表しています。

部品交換の費用もさることながら、ブランド価値の低下も大きいです。ボルトがこのリコールによって、販売中止となったため、GMは北米で販売できる完全な電気自動車がなくなりました。EV化を推し進めたいGMとしては非常に痛手です。

バッテリーはEVの要部品ですが、これまで培ってきたエンジンなどと比べれば新規の部品、どうしても品質リスクは避けられません。そして品質異常が起きた際には現在は設計上、セル単体での交換は難しく、モジュールごと交換のため、費用がかさみます。バッテリーを車体の構造部材として使っている、また冷却関係の配管も走っているのでディーラーでの交換作業も大変です。一度異常が出ると莫大なリコール費用がかかる…EVのバッテリーは現状非常にリスクの高い部品なのです。

リスクに見合うだけの利益は出ない問題

リスクが高い部品にも関わらず、バッテリーは利益の高い部品ではありませんパナソニックはテスラの車載電池で長年赤字(稼働から3年後にようやく黒字化)、LG化学も20年リコール費用のために赤字を計上しています。この4-6月期は黒字でしたが、今回の1100億円の費用が損失として上がれば、利益は吹き飛んでしまいます。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM232OL0T20C21A8000000/

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM232OL0T20C21A8000000/

自動車分野は厳しい安全基準や長期間の供給責任を伴いますが、決して価格は高くありません。EVのバッテリーの安全問題は走行距離・重さ・車の価格などの要素と複合的に絡みあっています。安全マージンを増やせばコストUPにつながり、他社との競争に負ける可能性もありバランスをとることは非常に難しい問題です。

EVの車載電池、現状を踏まえれば高付加価値で個あたりの利益率が高いというよりは大量生産でコストを下げ、薄利多売で売り上げを伸ばす部品になる可能性が高いでしょう。

そしてその電池を使用するEV自体も利益率は高くありません。

ブルームバーグ・ニュース(Bloomberg News)に因れば、GMはボルトを1台売るごとに8千ドルから9千ドルもの損失を被るであろうと見込まれている。GMのスポークスマンは、予想される収益についてコメントすることをやんわりと断っている。
https://www.bloomberg.com/news/articles/2016-11-30/gm-s-ready-to-lose-9-000-a-pop-and-chase-the-electric-car-boom

EVはバッテリー等の原価が高く、通常のガソリン車よりも利幅が薄くなっているのが現状なのです。

「EV一辺倒」というリスク

世界では各社がEVの新規開発、投入。そして必要なバッテリーの設備投資を進めています。今回のリコールで明らかになったのは、現状EVが抱える品質問題とその莫大な費用リスクです。

世界のメーカーの中にはEV一辺倒で開発していると報道されている企業もあります。現在EVはこうした大きなリスクを抱えた存在であり、EVシフトを急激に進めることは「博打」の要素も強いことを知っておいた方がよいでしょう。

今回はLG化学でしたが、バッテリーではこれから新規企業が次々に参入してきます。世界シェア2位のLG化学は決して品質が低いわけではありません。新規企業においても、LG化学と同等、むしろそれ以上に品質リスクはあり、台数が伸びれば伸びるだけ、もしリコールとなればその費用は莫大になります。

世界進むEV戦略。確実にその速度は早まっています。ただ各社の戦略を評価するうえで、今回明らかになったバッテリーの品質、そして異常の際のコストリスクについて念頭に置いておかなくてはいけません。

どの段階でどういったバッテリーに投資するのか。これが自動車メーカーの命運を握ることになりそうです。

***

【週の半ばの独り言】

トヨタショックでも忙しさは変わらないというかむしろ忙しくなっているやんけの今日この頃。9月だとみんな暇になるのかな(現場は暇そう)

***

いやいや、今回も書きすぎました。

ただその分どこよりも詳しい、役に立つ記事になっているのではないかと思います。

Twitter等でご感想いただけると、とてもうれしく励みになります。

さぁ。今週ものこり2日頑張っていきましょう!

・トヨタやテスラなど自動車メーカー最新情報
・CASEなどの業界トレンドを詳細に解説
・各自動車メーカーの戦略や決算分析

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