【テスラの強み、ここに有り!】ギガプレスがクルマの製造を変える
ご安全に!
秋はやっぱり月見だね!ということで、月見バーガー販売でマクドナルドに足を運んでしまうかッパッパです。
でもコメダの月見の方が3倍くらいすごい。こちらは食べに行く予定がないのですが、購読者の方で食べられた方いたらぜひとも感想をください。ボリューム感、半端ばい。
22年も絶好調。販売台数は年々右肩上がり、飛ぶ鳥を落とす勢いのテスラ。利益率も既存メーカーをはるかに上回る10%後半、株価もダントツ、自動車業界NO1の地位を誇っています。テスラがここまで伸びたのは既存メーカーにはない革新的な取り組みを行い、大きな成果を上げてきたから。加速性能に優れた運転性能、大型ディスプレイに統一されたシンプルかつ高性能なUX、運転手への負担が少ない運転支援、OTAにより年々更新車両性能、販売店を通さないメーカー直販…挙げればきりがありません。
テスラが革新的なのはクルマそのものやビジネスモデルだけではありません。クルマの生産方法も実に革新的、最新技術が取り入れられ、その代表例が「ギガプレス」。テスラの決算発表の中でも強調される、「ストロングポイント」の1つとなっています。
ではこの「ギガプレス」、いったいどんなもので、何がすごいのか。今回の記事ではギガプレスの設備がどのような内容なのかからはじまり、その長所や短所までどこよりも詳しく解説します。これさえ読めば、ギガプレスのことはばっちり、テスラの「強み」をより理解できる内容です。
ギガプレスって何?
https://www.appbank.net/2021/06/18/technology/2084019.php
ギガプレスとは一言でいうと「バカでかい鋳造設備」。「プレス」とは名前がついていますが、通常の「プレス加工」=ワーク(加工対象物)に対してプレスによる圧力をかけることで加工を行う機械ではありません。溶けた合金(溶湯)を金型の中に圧力を加えて流し込む加工方法、鋳造(ダイカスト)を行う設備です。(メガキャスティングとも言われています)
ギガプレスの名の通り、7.5M×20Mと非常に巨大な設備。実際にどれだけ大きいかは、こちらの動画をみるとよくわかります。
ギガプレスはイタリアのIDRA社と中国のLK Group製(全てIDRA製だと思っていたのですが、調べると中国はLK Groupかもしれない)となっています。世界でギガプレスを生産しているのは現状2社のみです。
ダイカストでは用途に応じて使われる合金が異なります。鋳造では鉄や銅、チタンやマグネシウムなど様々な合金が用いられ、テスラのギガプレスではアルミ合金が使われています。後述しますが、この合金の成分がダイカスト生産の極めて重要なノウハウとなります。
テスラではこのギガプレスを用いてモデルYのリア部分を生産、現在はフロント部分でも採用され、適用範囲が広がっています。(下記写真青字部分)
ギガプレスの製造工程
https://www.sunrise-metal.com/tesla-giga-press-die-casting-machine/
ギガプレスでの生産の流れを説明します。なぜか異様に詳しいサイト(英文)がありましたのでこちらをベースに解説。(中国メーカーのオウンドメディアっぽいのですが、なぜそんなにギガプレスに詳しいのか謎)
ギガプレスでは金型がセットされており、その金型にアルミ合金を高速・高圧で注入することで製品=車体のフロントとリア部品を生産します。
まずはアルミを溶かすところから。アルミの合金を加熱炉に投入。ギガプレスには2つの加熱炉があり、1つ目の加熱炉では天然ガスにより850℃まで加熱し、アルミを溶かし、不純物を取り除きます。2つ目の加熱炉では電気による加熱で温度を750℃~850℃に調整します。
金型の準備として、分離が容易にできるよう、事前に潤滑剤(油)の塗布が実施されます。
そして溶けたアルミ合金をギガプレスへ。この際の圧力がギガプレスを表す単位となっており、5500tや6200tの設備が現在導入。ギガテキサスでは9000tの設備が導入されている模様です。部品が固まるまで金型の中で放置。400℃ほどのになった段階で部品を取り出します。
その後急冷タンクで部品を冷却。この急冷は部品の強度などの特性への影響が大きく、どれくらいの速度で行うか重要な工程であり、安定した品質を保つためにはノウハウが必要になります。185℃程度まで冷却されたあと、洗浄。
仕上げとして、部品に付着した余分な金属を取り除く、寸法確保のため、プレス工程を実施。 X-Ray machines(放射線測定器)で検査し内部に欠陥がないか確認(ここ重要)。問題がなければ、レーザーにより部品のトリミング、CNCマシンでの金具の穴あけ加工を実施し、精度をCMM(三次元測定機)で確認し、部品が完成します。
ちなみに生産途中で出た端材や品質NGとなった車体はもう一度溶かすことで再び材料として使うことが可能です。
テスラ ギガプレスと従来の車体との違い
(↑一般的な車両の製造工程 車体は0:34から)
車体のフロントとリアを一体成型するギガプレス。従来のクルマとはどのように違うのでしょうか。
まず違うのは材料です。一般的なクルマは鉄、鋼板(冷延圧延鋼板)が使われます。テスラギガプレスではアルミ合金を使用。使われている金属が異なるのです。
次に製造工程。従来の車体製造工程は圧延鋼板を切断⇒パーツごとにプレス加工、成形⇒各部品を溶接の順で行われるのが一般的。一方テスラはギガプレスの工程のみ一体成型で車体を製造します。(フロント、リア部分以外は通常と同じくプレス⇒溶接)
最後に部品数。従来の車体ではそれぞれのパーツごとに分けられてプレスするため部品数が多くなります。ギガプレス採用前のモデル3ではフロント、リアのパーツだけで171個。ギガプレスは一体成型となるため、部品は2個のみ。大幅な部品数削減が可能になります。
テスラ 22年1Q資料より
ギガプレスのメリット
IDRAより
ギガプレスを採用するメリットは何でしょうか。
1番大きなメリットは生産効率の大幅な向上です。従来は多数の部品ごとに生産し溶接⇒1つの部品として鋳造。そのため、車体の組み立て(溶接)の工程が省けます。その結果、時間や労力、生産コストの大幅な削減が可能になります。テスラ曰く車体製造コスト△40%が可能になる製造技術とのこと。
また、車体にアルミ合金を採用することで軽量化。車両の性能UPにもつながります。
工程が少なくなることは製造に必要な生産ライン、ロボットも最小限に抑えることができ、投資や工場の土地使用量を減らすこともできます。
良いことだらけのギガプレス。しかし問題がないわけではありません。
ギガプレスのデメリット・懸念点
ギガプレスで難しいのは品質不具合の管理。鋳造ではどうしても鋳巣=鋳造物の内部に空洞が発生する不具合が発生します。車体の決め手となる、フロント、リアに品質具合があれば、車体の強度、剛性が不足⇒重大な欠陥となります。鋳巣を発生させないためには、合金の割合や加熱、冷却、その速度や金型設計のノウハウが必要となり、一朝一夕で不良率を下げることはなかなか難しい(直近はベルリンの立ち上げで苦しんでいそうで、不良率が高いという噂も)。そしてこの鋳巣は外側からでは見つけることが出来ないので検出方法を確立することも重要です。現在テスラでは放射線測定器と三次元測定機の2つを使って検出を行っている模様。(かなり大規模な検査機だと思うのでぜひ一度見てみたい)
またギガプレスは大型の鋳造設備で、金型の交換に時間がかかる⇒少量多品種の生産は難しいと考えられます。テスラはモデル数が少なく、現在はモデルYのフロント、リアを生産⇒多量同一品種生産となっているため、ギガプレスはぴったしの設備。ただたくさんのモデル、車体を生産する自動車メーカーにはギガプレスでの生産は向いていません。
またアルミを採用していることによる強度、剛性の確保、安全性をどう担保するかも問題の1つ。テスラでは、衝突時のエネルギーをより効果的に吸収するよう設計されたフロントクランプルゾーンなどを採用することで安全性を保ち、各種安全性テストで高い評価を得ています。
また、ギガプレスの導入にあたっては非常に大きい設備であるため、新規立地用の土地が不可欠。トータルで見れば製造ラインが減り、導入される設備も減るので使用面積が少なくなるのかもしれません。しかし新規立ち上げでなく、既存ラインと併用して生産するのであれば、追加での立地確保が必要。周囲に十分な土地が余っていればよいのですが、ギガプレス用のスペース確保は、簡単ではないでしょう。(土地が限定される日本は特に難しいかもしれません)
製造工程が集約されているため、ギガプレスでの生産が後工程に影響を及ぼすことが大きいこともリスク。2020年3月フリーモントのギガプレスで火災が発生し、設備が停止したこともありました。
最後に消費者目線でいうと、一体成型ゆえに部分修理ができず、修理費用が高額になるという欠点があります。後退時に壁にぶつかって右側後ろが大きく陥没し、リアドアやテールランプなどが損傷⇒修理費が約370万円といった報道もあります。これはあまりにも高すぎますが、部分修理できる既存メーカーと比べればどうしても価格は高くなるでしょう。
ギガプレスって実際どやねん
最初に導入されたフリーモント工場のギガプレス
さて良いところも懸念点もたくさんあるギガプレス。実際のところ評価はどうなのでしょう。個人的にはかなり大きな効果が上がっていると考えています。
ギガプレスが採用された後で、テスラの収益構造は改善され、黒字化。もちろんギガプレスだけの要因ではありませんが、一定の製造コスト減に寄与しているでしょう。生産最初からギガプレスを導入した上海ギガファクトリーで生産台数が伸びていることがテスラ直近の躍進の大きな理由であり、利益を上げる=安価に作るためにギガプレスは大きな役割を果たしています。
テスラ内ギガプレスの採用は広がっており、当初はモデルYのリアのみ⇒フロントにも拡大、新工場ギガベルリン、ギガテキサスでもギガプレスは導入されています。決算発表や報道でもギガプレスはテスラ製造技術の代表例として紹介。BEVや自動運転だけでなく、他社にない革新的な製造技術の導入が今のテスラ躍進を支える要因にもなっています。
ただ、まだ導入されたばかりの製造技術なので問題が多いこともまた事実。ギガベルリンでは不良率が高く、外に野積みされた車体がネットに上がっています。これを受けてかどうかはわかりませんが、ギガプレスのサプライヤーをIDRA社からスイスBühler社に変更するという噂もあります。まだまだ開発途上の技術になるので今後テスラが生産を続けていく中で改善され、より生産性の高い生産技術になっていくと思います。
広まるギガプレス
ボルボが20年代半ばに商品化する予定の次世代EVプラットフォームには、リアフロア周りの部品をアルミダイカストで一体成形する「メガキャスティング」を採用(出所:Volvo)
テスラの成功を受けて、他社でもギガプレスの採用が始まっています。既存メーカーではボルボが導入を決定。これから販売が伸びていくであろう次世代EVプラットフォームに採用が決まっています。
また躍進が続く中国の新興BEVメーカーでも導入が予定、計画されているとの報道もあります。ただ、テスラでも不良率が高いようにギガプレスには、合金の成分や圧入時の条件、金型設計など独自のノウハウが必要なことは間違いありません。多額の設備投資で導入したものの、不良が多すぎて目も当てられない…なんて結果にならなければよいのですが(本当に革新すぎるので技術確立が難しい。)
車体といえば「鋼板をプレスして溶接して作る」といったこれまでの製造技術はギガプレスによって今後変わっていくのかもしれません。これまでは複数工程に分かれていた車体製造がギガプレスでは一体化、製造工程がシンプルになり、生産効率は向上します。今はまだ車体の中でも限られていますが、テスラだとより範囲を広げ、将来は車体が片手で数えられるほどの部品で構成される…なんて未来も待っているかもしれません。(テキサスに導入されたギガプレスは9000tでサイバートラック向けだとか…どんな部品を作るのか気になる…)
今世界で最も注目されている自動車の生産技術といっても過言ではない、「ギガプレス」。今後の技術、採用動向に注目です。
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