【イチから分かる電動化⑤】国内メーカーの最新電動化戦略
ご安全に!
海外メーカーに比べ、遅いと批判されている国内メーカーEVシフト。ただ、各社は昨年から従来よりも大幅に前倒しした戦略を打ち出しています。
ただ次々と更新されすぎて、どこがどんな戦略をとっていたのかわかりづらい。
今回の記事では2022年4月時点で国内メーカー、最新電動化計画をまとめました。他のどのサイト、ニュースよりもまとまっている非常に役立つ内容。
これさえ読めば、国内メーカーの電動化戦略はばっちり。項目もそろえて横並びで比較できるので会社ごとの特徴もつかめます。
果たして国内メーカーは本当にEVシフトが遅れているのか。実際に各社の電動化戦略を分析、比較します。
1.トヨタ
まずは販売台数世界1位、日本を代表する自動車メーカー「トヨタ」から。
昨年12月に発表され、話題になった電動化計画。それまで2030年200万台としていたBEV販売台数を350万台に上方修正。それまでのEV戦略は前倒しはしているものの、消極的。日本のみならず世界から批判されてきましたが、12月の発表では大きく方向転換がなされました。ただし、販売の割合で考えると現在約1000万台、これからの伸びを考え、2030年1100万台程度とすると、BEV割合は約30%。これは現在のEV世界販売割合見込みとほぼ同等。海外メーカーと比較すれば、その割合は高くありません。世界のEVシフトに合わせた現実的な数字になっています。また、トヨタの高級車ブランド「レクサス」は2035年に100%BEV化する計画です。
販売車種予定は2030年までに30車種。人気のSUVはもちろん、ピックアップトラックや軽自動車、スポーツカー、商用車まで全方位戦略。12月発表では各モックアップも紹介。幅広いセグメントでのEV販売が予定されています。( ちなみに個人的にこの中で気になったのは「コンパクトクルーザー」。FJクルーザーを彷彿とさせるデザインは非常にユニークでカッコいいですよね。)
2022年から順次EVを市場投入。直近ではSUV「bZ4X」が販売。価格は600万~。日本ではサブスクのみでの販売が話題になっています。(サブスク価格は5/2発表予定)国内年間販売台数見込みは5000台ほどと多くありませんが、今後生産体制が整えば、その数量は増えていくでしょう。
またレクサスブランドでは初のEV専用車『RZ』が2022年末より販売開始予定です。
EV専用プラットフォーム「e-TNGA」を開発。固定部位(モーターユニット、フード内のレイアウト、ドライバー位置、電池幅など)と変動部位を決めて複数バリエーションに対応。
https://global.toyota/jp/newsroom/corporate/28416762.html
フロント・センター・リヤなど数種類のモジュールやユニットを組み合わせることで様々なバリエーションの車両を効率的に開発予定です。
投資額はBEVのみで2030年までに4兆円。うち、電池に2兆円を投資。それまでの計画では電池関連の投資額としては2030年までに1.5兆円だったので、電池への投資を5000億円積み増し。電池開発に力を入れていることがわかります。
トヨタは日本メーカー各社との連携を深めています。SUBARUとはBEVを共同開発し、兄弟車として「ソルテラ」を委託生産実施(元町工場で生産)。マツダ、スズキ、ダイハツともEV分野での関係強化を発表しています。
日本の電動化は「トヨタ系(トヨタ/SUBARU/マツダ/スズキ/ダイハツ」「ホンダ」「日産/三菱」の3グループに分かれています。トヨタはその中心的役割を担っており、莫大な投資と各社との連携を基に日本全体の電動化開発を推し進めていく見込みです。
カーボンニュートラル目標は2035年までに世界の自社工場で二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロへ。50年には世界の新車走行時の平均CO2排出量を10年比で9割減らすことも目標に。ただ、仕入れ先を含めた製造での排出ゼロについては具体的な目標は掲げられていません。ただ直接取引している主要部品メーカーに対しては、CO2排出量を前年比で3%減らすよう求める活動をすでに始めています。
EVシフトが遅いと批判され続けてきたトヨタ。この直近で大きくEVシフトを鮮明にし、具体的な計画を発表、「bz4x」を頭出しとして本格的にBEV生産/販売を開始。好調な業績をベースに莫大な投資も実施。今後、EVの遅れを巻き返していけるのか。当面は技術力のあるHEVで好調を維持できる見通しですが、2030年ごろのBEV本格普及期に入った際に果たして現在の世界TOPの地位を維持し続けられるのか。今後のトヨタEV戦略に注目です。
2.日産
いち早くEV「リーフ」を販売し、日本のでEVを牽引してきた日産。ルノー/三菱とのアライアンスを活用し、EVシフトを加速させています。具体的なその戦略についてみていきましょう。
電動化計画としては2030年度までに15車種のEVを含む23車種の電動車(HV含む)を導入。2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入。電動車の販売比率を(1)欧州:75%以上、(2)日本:55%以上、(3)中国:40%以上、(4)米国:2030年度までに40%以上(EVのみ)とすることを目指しています。ポイントは電動車であってEV単体の目標としていない点。具体的にBEVをどれだけ売るか、その販売台数/比率は明確に発表されていません。電池の生産能力、2030年度までに130GWhの目標から逆算(「B6」=66kWh)とすれば、約200万台分。2021年の販売台数が406万台+HEVに使われる電池を考慮すると、大体40%ほどのBEV化が想定されます。
長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」を発表する内田 誠社長とグプタCOO
代表車種は今年発売になったSUVEV「アリア」。日本のEV本格参入の筆頭。2022年EV元年を代表する1台です。価格は補助金込みで500万を切るところから。トヨタの「bz4x」や今後発売が予定されているテスラ「モデルY」、現代「 ioniq 5」と競争を繰り広げていくことになるでしょう。
また今年には三菱自動車と共同開発した軽EVも販売開始予定。日本での普及のためには欠かせない軽自動車でのEV。この販売がどれだけ伸びるかに注目です。
リークされている名前的に4月には出したかったのではないか感の軽EV
プラットフォームはルノー/三菱と共同して開発。3社で5つの共通EVプラットフォームを共用。3社のBEVの90%の車種カバーする予定。アライアンスを活用して、共同で開発/生産を行うことで研究開発費/共通化によるコスト低減を実施します。
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CMF-AEV。最も手頃なプラットフォームで、量産小型大衆車向け
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軽EV専用プラットフォーム
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LCV(小型商用車)EV専用プラットフォーム。日産「タウンスター」のベース
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CMF-EV。主力。グローバルでフレキシブルなEVプラットフォームである「日産アリア」に採用。2030年までに15車種以上にCMF-EVプラットフォームが採用予定。
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CMF-BEV。コンパクトEV用のプラットフォーム。日産「マイクラ(マーチ)」後継車に採用。
投資額は今後5年で2兆円。ただしこれはEV単体ではなく、HVを含んだ電動車での投資計画。ルノー/三菱と合わせた金額は今後5年間で230億ユーロ(約3兆円)を投資。VWやトヨタと比較するとその金額は決して大きくはありませんが、販売台数や売り上げ規模を考えると、投資額は非常に大きく、電動化に注力していることが明確です。
ルノー/三菱との3社アライアンスをフル活用した電動化、日産のEV戦略。多額の投資が必要になる中で3社でいかに効率的に開発/製造できる体制を整えられるかが今後の成長のカギとなります。
カーボンニュートラル目標は2050年。日産が特徴的なのは電池のリサイクルなどで具体的な計画を発表している点。リーフを先駆けて販売し、廃車後の電池の活用に知見のある日産だからこそ打ち出していける戦略。この点では海外メーカーを含めて、日産はリードしている状況にあります。
技術の日産。リーフを先駆けて販売したものの、現在は販売台数がそれほど先行できているわけではありません。ただし先行者としての知見、そしてアライアンスを活用して今後販売されていくEVにより、再びEVのTOPバッターになるべく、開発を進めています。
日産のキャッチフレーズの「やっちゃえ」のごとく、EVでやっちゃうだけの存在感を復活できるかに注目です。
3.ホンダ
2040年にEV、FCVの販売比率グローバルで100%。日本メーカーの中で唯一HEVを含む内燃機関車の全廃を明確にしているホンダ。先日2022年4月に発表された電動化計画ではその詳細が明らかになりました。トヨタを上回る速度でのEVシフト。その中身を見ていきましょう。
電動化計画はEV、FCVの販売比率2030年に40%、2035年に80%、2040年にはグローバルで100%。ここまで詳細に計画を発表している自動車メーカーは海外を含めても稀。台数も明言。2030年段階で200万台以上のBEV販売を目標として掲げています。
販売車種予定は2030年までに世界で30車種以上。トヨタ、日産/ルノー/三菱連合に引けを取らない。大々的に車種を展開していく予定です。具体的には北米ではGMと共同開発の中大型クラスBEVを2024年に2車種投入。中国は2027年までに10機種のBEVを投入。日本は2024年前半に商用軽自動車BEVを100万円台で投入。その後、パーソナル向けの軽自動車BEV、SUVタイプのBEVを適時投入予定。
代表車種は現在発売されている「Honda e」。取り回しの良さを重視した都市向けのコンパクトカー。主に欧州をターゲットとして販売されています。
また日本に先立ち、中国では「e:N(イーエヌ)」シリーズを2022年から販売。「e:NS1」「e:NP1」を皮切りに、中国で2027年までに10車種のe:Nシリーズを投入。EV専用の工場建設も決まっています。
プラットフォームはハードウエアとソフトウエアの各プラットフォームを組み合わせた「Honda e:アーキテクチャー」を開発。2026年から投入予定。車体だけでなくソフトウェアも含めたプラットフォームである点がポイント。
またGMと連携し、「Ultium」バッテリー/プラットフォームを活用した車種を北米で販売。従来のガソリン車と同等レベルとなる量販価格帯のBEVを2027年に北米から投入予定です。
投資は今後10年で研究開発費として約8兆円を投資、そのうち電動化とソフトウェア領域に約5兆円(研究開発費3.5兆円、投資1.5兆円)を投入。8000億円/年は海外メーカーとほぼ同等レベル。四輪事業の低収益化に苦しむ中でも研究開発費は高い水準が維持される見通しです。
GMと連携との連携を強化しており、プラットフォームの活用や電池供給で提携。またソニーとも戦略的提携を結び、EVを販売予定。実は日本メーカーの中で孤立気味だと思っていたのですが、直近相次いで提携関係、強化が発表され、ホンダ単独ではなく、GMやソニーなどと提携を深め、この変革期を乗り切る戦略が明確になってきました。
ソニーのEV VISION S こちらはマグナ・シュタイア組み立てなのでおそらくホンダからはでないはず
カーボンニュートラルは2050年目標。現段階で掲げられているのはEV化がメインですが、今後工場の排出なども含めて目標が発表されていくでしょう。
電動化に一気に舵を切ったホンダ。エンジン畑三部社長が内燃機関車の全廃を宣言することが何よりの証拠。直近で注目したいのは他社との連携。EVは1社だけでは研究開発費、投資など荷が重すぎる。GM、ソニーとの提携関係が果たしてうまく実を結ぶのかがホンダEV戦略のカギとなります。