【池田直渡氏対談④】充電インフラより重要?EV普及の問題は「1充電追加走行可能距離」

自動車業界の最新ニュース解説を発信するニュースレター、モビイマ!。今回は1周年特別企画、自動車ジャーナリストの重鎮、池田直渡さんとの対談記事をお送りします。国内、海外含め多岐に及ぶ内容。第4回は「充電インフラより重要?EV普及の問題は『1充電追加走行可能距離』」です。
カッパッパ 2022.06.16
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ご安全に!

在宅勤務の時のお昼ご飯は大体、前日の夕飯の残り、カッパッパです。

今回も引き続き、池田直渡氏(@naotoikeda)との対談をお送りします。今回のテーマはEV普及のための問題点。世間では充電インフラの整備が強調されています。実際に使うユーザー目線で見ると、一番重要な点は少し違っていて…そして、インフラの整備も課題が山積み。

これまでに続き、とても充実した、ここでしか読めない対談。それでは早速続きをどうぞ。

1.モビトーク

EV普及最大の問題は「1充電当たりの追加走行距離」

池田:

いつも見過ごされているんだけど、これから EVの数が増えてくる中で、EV普及に関する最大の問題は、バッテリー残量が10%程度まで減ったところからの「1充電追加走行距離」です。

高速道路のサービスエリアにある充電器は最大50kW。50kWで30分ということは、理論値でも25kWアワーしか入らない。今、電費が7㎞/kWhだとすると…

カッパ:

175kmですか?

池田:

そう、充電器のスペックが変わらない限り、理論値で200Km走らない状況は物理的に改善する方法がない。現実的に気温その他にも依存して、だいたい100~150km程度でしょう。お盆とか正月とかバッテリーに厳しい気候条件の時に、東京から一斉に出発した車が、 満充電走行距離の250Kmあたりを超えたところで、みんな1時間に1回30分充電しなきゃいけなくなるわけです。100km強しか走れないってことは高速の場合、1時間しか走れない。そうなると、サービスエリアは大変なことになる。

その問題については「充電のインフラがしょぼいからいけないんだ、日本は遅れている」と主張されるのだけど、250kWの充電器をサービスエリアに10台つけたら、 どれだけの電力需要量になるのか。明らかにインフラの送電許容量を超えるんです。

60A100Vの家、これが東京電力で普通に契約できる家庭用の最大容量。250kW、つまり250,000Wを100V60Aの6,000Wで割ると41.6666……、東電が想定する豪邸42軒分になる。

カッパ:

充電器1台当たりで42軒分?

池田:

10台つけるとそこに町が1つできるような規模になる。そんなものをそこらに既存であるインフラ電力線にポンとつなげるわけもなく、インフラの電線容量をやり直すところから始めないと無理です。

カッパ:

先日、ドイツのレポートで「ガソリンスタンドでの1台と充電スタンド40台がほぼ同等、スタンドで10台あれば充電器が400台必要になる」というのを見て、これは整備難しいと思ったのを思い出しました。

充電事業を収益化する難しさ

池田:

1日は24時間なので、充電1回30分だと、最大限一分も無駄にしないで使って48台しか充電できないんですよ。 それで利益が出るようにしなきゃいけない

カッパ:

収益化する問題、実際できていないですよね。

池田:

絶対にできない。テスラがもし倒産したら、その日から世界中のスーパーチャージャーが全部動かなくなる。そうすると、テスラオーナーは全員、CHAdeMOで充電しなきゃいけなくなる。事業再生を探るにしても、スーパーチャージャー事業を単体で誰かが引き継ぐことはあり得ません。完全なゼロ利益だから、事業として成立しないんです。スーパーチャージャーはEVを普及させるためのおまけなので、自動車事業が成り立たなくなったら、自動的になくなってしまう。誰も引き継がない。

だから、テスラオーナーは「テスラはスーパーチャージャーがあるからすごい」って言ってるけど、実は将来的なEV充電というインフラ事業を殺してる側面もあるんですよ。

充電事業を事業化できるようにプランを作っていかなきゃいけないのに、スーパーチャージャーが絶対に事業化ができない状態で普及を進めているので、EVの充電事業ってのは誰も触りたくないものになってる。

カッパ:

EV推進派の方がよくガソリンスタンドが収益性、成り立たないから潰れるっていうんですけど、充電スタンドも利益が上がるかというとそうではない。そもそも充電機って成り立つのか。

池田:

今は成立する可能性がない。家での充電も、6kWの普通充電器(200V、最大30A)を使うとピーク値としては30A使ってしまう。30A使うと、60A契約の家では、使える電力が半減するわけですから、今までと同じように電気を快適に使えなくなるわけですよ。充電中は全部の部屋のエアコンを一緒に稼動させないとか、電子レンジやドライヤーは使わないみたいな制限が起きてしまう。

だったら、家庭用の普通充電器の6kWは、家庭用とは別契約のEVサブスク契約にして、加入してる人は例えば月1万円の定額で、自宅でのEV普通充電と外(経路)での急速充電器もセットで使えるよとした方が良い。そういうことをするためには、充電インフラ整備は自動車会社持ちではなく、電力会社の事業にした方が合理的です。日本で、株式会社e-Mobility Powerがインフラを受け持っているのを、テスラ界隈の人はよくバカにしているんですが、長期ビジョンを考えると、そういう電力系事業者じゃないとバランス良いインフラの発展は望めないと思いますよ。

カッパ:

なるほど。それは良い案ですね。

池田:

そもそも経路での急速充電というのは、短時間で大電流を使うものなので、インフラにもバッテリーにも負荷が高い。常用するものじゃないんですね。あくまでも緊急避難用というか、困った時だけ使うもの。稼働率が高くなることは誰にとってもあんまりうれしくないけれど、やはり電欠で身動きできなくならないためには普及が必要。EV社会にとってのもしもの備えです。そういう保険的なものを独立採算にするのは難しい。インフラの拡充が後手に回りがちなのはそういう理由です。けれどもこれを毎日使う自宅用の普通充電とセットにすれば……

カッパ:

インフラの拡充にも活用が効く。

池田:

外での充電機は稼働率が低くても、家庭用の6kWと、経路充電の90kWの充電器を全部同じ財布の中で賄える。それだったら成立するわけですよ。このように制度のところから直さないと充電事業は成立しないとボクは思っていて、そうなると多分定額じゃないと成立しない。おそらく、月額1万円程度。安いか高いかという話ですが、多分5000円じゃ成立しないと思います。

充電インフラが整備されないままでのEV普及が進むと…

カッパ:

日本でEVが普及するためにはその充電問題を解決しないとだめですよね。日本では2030年代に入ってからが本格普及の時期だと思うのですが、それまでに目途をつける必要がありますね。

池田:

今年は、高速の経路充電サービス利用で喧嘩というか傷害事件なんかが起きる可能性がありそうですね。bZ4Xとソルテラ、アリアが出たところへ、軽EVが絶好調で売れている。運用慣れしていない人が、結構な数増えるはずなので。

カッパ:

今後お盆や、年末のピーク時のところでの充電争いが出てくるかもしれない。

池田:

ボクも現実に、今年の正月にEVを使ってみて、自宅に充電器がない環境では、EVはまだ使い物にならないと思いました。家から下道で15分から20分、そこから高速に10分くらい乗ってパーキングエリアの充電器に充電しに行ったんですよ。 

短距離ドライブがてら、ちょっと充電しようと行って、帰ってきたら元の充電量に戻ってましたからね。往復するのに使う電気とパーキングエリアで充電できた電気がイコールだった。それは、さすがにボクの予想を上回ってました。何のために高速代金を使って充電しに行ったのか。意味がなかったんです。

カッパ:

充電問題は、これから本格化していくんでしょうね本当に。

池田:

その現実にぶち当たったときに皆さんが「まあそんなもんだよね」って思えるかどうかです。 おそらく今EVに乗っている人たちが「これ以上EVが流行ってほしくない」って言い出すんですよ。

カッパ:

すでにそうした意見聞かれ始めていますね。これ以上流行ると困ると。

池田:

トヨタですら、150kWの充電器だったら30分で80%まで充電できますよって言ってるけど、いやちょっと待て、その150kWの充電器を普及させるにはどうするんだという話は残る。 という話は残る。 

前出のe-Mobility Powerが、大黒パーキングエリアに設置された新規格の90kWの充電器が二股になっていて、2台繋がれると出力落ちちゃう。これはインフラの電力に過負荷が掛からないようにそういうふうに設計してある。それを、EVに乗っている人は、ダメ仕様だと怒ってる。けど、みんなが同時に90kWも引っ張ったら、インフラ電力設計が成り立たない。1台で占有できるときは90kWで入れられるからいいじゃないかで受け止められるべきですよ。

メンテナンスどうしよう問題

カッパ:

高圧になると設備だとか検査の人もいるようになって大変だと思うのですが。

池田:

そこはルールの問題なんで法律をどう変えるか。ただ、ケーブルの冷却まで入るような状況になるとメンテナンスだけでも大変。そこも今は非採算事業なので、保守コストをかけられるのか。既に今の状態でも充電器は結構壊れてるんですよ。

カッパ:

去年はたしか充電器、減ったんですよね、採算不良で撤去が続いて。

池田:

使えるんだけど、少し壊れている充電器もたくさんあって、取っ手の部分が破損しているとか液晶が曇って全然見えないとか。

カッパ:

僕の家の近所の充電器もそんな感じですね。

池田:

非採算事業になってる以上、保守更新コストをかけられない。それに、充電器を更新しようとするとコストが600万くらいかかる。 

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続きは、2913文字あります。
  • マンションへの設置をどうクリアするか/快適につかうための条件/充電するためのマナー
  • 水素の方が現実的?

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