【池田直渡氏対談①】テスラ、2030年、2000万台問題
ご安全に!
6月には祝日がない…でもトヨタカレンダーにはそもそも祝日ないから関係ねぇ!と仕事に打ち込むカッパッパです。
5/31でニュースレター「モビイマ!」は1周年。今回は1周年を記念して、特別対談記事をお送りします。
そのお相手はなんと自動車ジャーナリスト界の超重鎮、池田直渡さんです。対談できたことにカッパッパもびっくり。
特別企画を考えている際に、寄稿をお願いできないかと連絡差し上げたところ、「ならいっそ対談しましょう」という流れに。いや、憧れの方だったので本当に緊張しました。
海外から国内まで話が多岐にわたり、当初1時間の予定が2時間半。文字起こしソフトに入れたら5万字超えの大ボリューム。非常に濃い、カッパッパも勉強になる大変有意義/役に立つ内容になっています。6月、数回にわたり、シリーズで発信。ここでしか読めない、池田さんとカッパッパが熱く語り合った対談記事。今後の記事も乞うご期待!
初回のテーマは「テスラ」。飛ぶ鳥を落とす勢い、営業利益率、驚異の19.2%を叩き出したテスラ。果たしてその将来はどうなるのか。自動車業界の方のみならず、投資界隈、テスラに少しでも興味のある方、必見です。
1.モビトーク

今回の対談相手 ~池田直渡氏~

言わずと知れた自動車ジャーナリストの超重鎮。試乗レポなどの一般的な自動車ジャーナリストの方が書く記事内容に加え、クルマの技術面/メカニズムでの解説や、自動車メーカーの経営/開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。トヨタイズムにての決算解説を行うなど自動車メーカーからの信頼も厚い。(いわば、カッパッパの超上位互換。)
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(直近の記事では「マツダのラージPF、CX-60プロトタイプに乗る」から4回に渡って語られるマツダの戦略解説記事がカッパッパ的にツボ。面白いのでぜひ。)
なぜ池田氏にテスラを聞きたいのか
カッパッパ(以下、カッパ):
まず最初にテスラについてお聞きしたいと思ってます。なぜテスラなのか、理由は2点あります。
1つ目がテスラとトヨタって皆さんの関心がすごく高い。決算とかいろんな会社の説明をしてもですね、テスラとトヨタはずば抜けてる。ぶっちゃけた話、読まれる伸び回数の伸びも全く違うので、ぜひともテスラをとりあげたい。
2つ目が池田さんがテスラについて書かれた記事、ほとんど読ませていただいたんですけど、ちょっと情報が古い。EV推進の罠でも言及されているのですが、1年以上たっている。加えて、技術的な点、ギガプレスなどへの解説はあるんですが、テスラの将来/会社全体を直接語った記事はない。テスラのこれからがどうなるかを池田さんにぜひとも聞きたいを思っています。
池田直渡氏(以下、池田):
テスラはいろいろ思ってることあるんですけど、その辺りの話をすると、熱烈なファンの方々に絡まれるので、、面倒くさいから最近触れなくなっています。要するに、見解が正直違うんですよね。
カッパ:
その点は大変よくわかります。
テスラ、2030年、2000万台問題
池田:
例えば、テスラは2000万台メーカーになるって言っている。テスラが2000万台を言い出した現在、販売台数はだいたい100万台くらい。要するに規模を20倍にするとかって話なんですが、そこまで倍率が高いと、もう事業計画とは呼べないですよね。
例えば日本の政策史上、かなり盛ったことを言ったのは池田勇人内閣の「所得倍増計画」あたりで、今の規模を倍にするぐらいまでは、ある程度の裏付けがあれば事業計画と言えるかも知れない。希望的観測も含めてプランらしきものが立てられるのはそのくらいが限界だと思います。 だから20倍計画は普通に考えてタダのかけ声です。どうせ妄想だったら100兆台とかって言ったらどうだと。その方が誤解を招かない。
要するに「俺たちはとんでもない成長をしてやるぜ」というメッセージでしかなくて、そこに置かれた数字は過激さを象徴する「副詞」であって、「very」とか「extraordinarily」という意味でしかない。中途半端に期待を抱かせる数字であることは罪が重い。トヨタやフォルクスワーゲンの1000万台という実績と並べたくなるからです。
2倍と2.0倍では意味が違う。2倍っていうのは副詞的ニュアンスですが、2.0倍は明確な数値で、その数値が導かれるロジックなりエビデンスなりがあることが前提です。そういう小数点以下の有効桁数みたいなことが共有できてない人と話ができない感じがあるわけですよ。
カッパ:
確かに、2000万台を信じてる人と大きな隔たりがありますね。
池田:
全体的にあれだけの量になると、もはや兵站の話をしないとどうしようもないわけですよ。例えば日本がアメリカを軍事的に占領する話をしたとして、この兵器を使えば、アメリカの全米都市をこれだけ破壊できるから勝てる。
ただ最終的にはそこには歩兵がいる。 各都市を占拠して統治しなきゃならないので、輸送船とか持ってんのかっていうとない。そうなるとそれはもう計画じゃないわけですよね。
だからテスラが2000万台って言うんだったら、どういう工場建設計画があって、それだけの製品を作るために必要な部品や原材料についての入手の目処があって、それだけの生産を支える従業員が何人必要で、それだけの人員をどうやって増やすのか、そうした基礎の部分が一番最初にありきです。それなしに、ただ2000万台って話を聞いて「テスラはすごいやっぱりさすがだな」って話になっちゃうと、「ごめん、ついていけん。」と。ボクの耳には、さきほど例に挙げた100兆台とかとさして変わらない。その計画をベースに、トヨタの2倍になるとかっていう話をされてもですね、「はいそうですか」としかならない。
カッパ:
その点は大変よくわかります。こうしたITベンチャー的仕草として「高い目標を掲げる」をやりつつ、一方で最近は大企業仕草する。しかもテスラ、基本的には計画後ろ倒し。それでも許される感じが、テスラはちょっとずるいかなって思います。
法整備/社会規範を含めた実現可能性
池田:
要するに、プロにとってはテスラの2000万台はもはや計画とか予想とかいうレベルにないんです。事業計画とかけ声が常にごっちゃになって出てくる。直近、数年でロボタクシーを爆発的に増やす話も,これももう正直詐欺か嘘に近い。実験車両が整えば、特区の中で走ることはあるかもしれないけれども、グローバルでビジネスにして行くには法整備の裏付けがなければ不可能です。世界各国の法整備なんてそんな数年では絶対に無理っていうのはもう明らかな制約条件なわけですよ。根本的には技術の問題じゃないわけですよ、明らかに。
他の例を挙げれば、空飛ぶクルマも一部の特区とかでは可能かもしれないけど、それがモビリティとして普及するかと言われると、それはまた全然別の話。都市部の渋滞を回避して空を飛べれば便利、みたいなことをみんな思ってるわけじゃないすか。だけど現実にできるのは人里離れた砂漠の上とかでしょう。セスナやヘリでも構わない様な場所です。クルマが飛ぶことを、安全を確保しながら実現しようとすれば、そうなる。23区の上を、銘々にクルマが行き交えればそりゃ夢がありますが、飛んで落っこちたら、社会が許容できるわけがありません。ラッシュの山手線の上にクルマが落ちたらこれはもう、地獄絵図でしょう。
カッパ:
技術革新的な方は、あまり安全の部分を重視されないところがありますよね。許容度の社会的重要性はすごく高い。
池田:
リアリティとして、やはり我々思っている社会の規範、長年構築してきた安全に対する規範っていうのは、簡単に無視していいものではない。「進歩のためには保守的であってはならない」という気持ちはわからなくもないのですが、「進歩のためには人命の犠牲もやむなし」と考えるならそれはマッドサイエンティストです。要するにテスラが目指してる社会は一体本当はどういうものなのか。多分人々が豊かで便利になる社会であって、それを阻害してまで「急速な成長」を優先するものではないはずです。「豊かさと便利さ」という目標に対して「急速な成長」というのはあくまでも手段でしかなく、手段が目的に優先されることはありません。だから、手段に過ぎない2000万台みたいな数字がここまで注目されてしまうと、そこに違和感があるわけです。かけ声は、事業計画としての評価には値しない、それ以前の問題なのです。
今回はここまで。この対談後にイーロンマスク氏のインタビュー記事が出たのですが、その中で2030年2000万台について言及が。
2030年までに2000万台というのは、希望であり、約束ではありません。
( 中略)繰り返しますが、あくまでも野望で、約束ではありません。でも、達成できるチャンスは大いにあると思います。その目標が現実的か否かは、私たちが発表する製品を見て、みなさんに判断していただければと。
( やっぱり事業計画というよりは野望/希望=かけ声ですね…)
次回は、実際にテスラが今後どうなるのか、そのアキレス腱は一体どこなのか、2人で言いた放題、語りつくします。ここでしか読めないとても内容の濃い充実した対談になっています。乞うご期待!
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