【クルマ作りを根幹から変える】トヨタ新技術徹底解説【生産技術編】

6/13に発表されたトヨタのクルマに関わる新技術。どの発表もこれからのクルマを大きく変える重要なものばかり。今回のニュースレターはその中でも「生産技術」に注目。その内容を徹底解説します。
カッパッパ 2023.06.19
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ラジオ体操を頑張るカッパッパです。運動不足の解消をせんと…

6/8に東富士研究所にて開催された「トヨタテクニカルワークショップ2023」。内容は、展示・試乗のアイテム数は40以上。「100%公開してしまうとネタが尽きてしまうので、90%に設定している」というその中身はどれもこれまでのクルマ作りを変えるような大きな技術革新でかつ、量産が目途付けされたものばかり。BEVで遅れていると指摘の受けているトヨタですが、他のパワートレイン及びモビリティサービスまで含めて、開発が進み実現に向かっていることが明確になった内容でした。

革新的な技術開発の中身を今回から複数回に分けて、解説します。

初回のテーマはモノづくり=生産技術。BEV、クルマの作り方を根幹から変えるその中身とは。詳細に解説します。

すべてが1/2「BEVハーフ」とは

(出所:トヨタ自動車)

(出所:トヨタ自動車)

「モノづくりの未来は2分の1。言うなれば『BEVハーフ』。モジュール構造と自走生産は、工程と工場投資を2分の1にする。さらにデジタルツインの力で、生準(生産準備)リードタイム2分の1を実現する」
トヨタイムズ「電池や水素で次世代技術 トヨタが示したクルマの未来」より引用

今回トヨタが掲げた「BEVハーフ」。これはBEV生産でのモノづくりを従来よりも大幅に見直し、開発から生産における3つの要素を半減させるという野心的な計画です。

その3つとは「工程(量産時の生産プロセス)」「工場投資」「生準LT(開発開始から量産開始までの生産準備期間)」

実現すれば自動車のモノづくりを根幹から変える計画。コストはもちろん、新車の出るタイミングも変わり、新技術が採用されるまでの期間も大幅に短縮されます。

自動車業界にいる身からすると、本当に実現するのかわからない夢物語に思えるのですが、中身を確認するとトヨタだからこそできる内容で、実現性はかなり高い計画になっています。果たしてどのような技術開発なのか。それぞれ、詳細に解説します。

テスラに負けない「ギガキャスト」

(写真:トヨタ自動車)

(写真:トヨタ自動車)

今回の発表の目玉の1つは「ギガキャスト」の採用です。テスラが先行し、すでに量産化されているアルミダイカスト、大型鋳造による一体成形

すごーく簡単に説明すると、これまでは鋼板を切断、部品ごとにプレス成形し、溶接で接合させていた車体部分をアルミの鋳造、高熱で溶かして金型に流し込み、成形することで、一気に大型部品を作り上げる技術。

bZ4Xを例に挙げると現状では

  • 素材:鉄

  • 部品数:86

  • 工程数:33

に対し、ギガキャストでは

  • 素材:アルミ合金

  • 部品数:1

  • 工程数:1

大幅に部品数、工程を減らすことが出来ます。コストの削減に加え、生産にかかる設備を少なくし、生産リードタイムを短縮できるメリットがあります。また、鋳造のために、部分的に厚みを変えることができ、剛性を確保しつつ軽量化も可能に。

ただ、ギガキャストは簡単な工法でなく、生産にあたりいくつもの課題が存在します。まず1点目は鋳造での品質の安定化。鋳造では「鋳巣」という内部に空洞が発生する現象がつきもの。空洞が発生すれば、部品=車体の強度に影響するため、発生させない、また発生した際には検出する仕組みが必要です。アルミの合金をどのような成分にするのか、金型の設計、どれくらいのスピードで金型に流し込むのか。そういった製造技術での知見が必要となり、また異常検出もどのように行うかの品質保証を考える必要があります。(ちなみにテスラのギガプレスは 放射線測定器で検査し内部に欠陥がないか確認しているらしい)

2点目は寸法精度の問題。鋳造後の部品は冷却で収縮するので、その収縮を見込んだ上で、製品/金型を設計する必要があります。事前のシミュレーションと実物での実測を繰り返し、量産できる品質になるよう生産工程を作りこんでいかなくてはいけません。(冷却の速度も重要)

3点目は異材との接合。ギガキャストで作られた部品はアルミ。他の車体部品は基本的に従来と同じ高張力鋼(要するに鉄)です。アルミと鉄の接合は同素材の接合よりも難易度が高く、十分に剛性を保つには従来とは異なる接合での工法が必要となります。

最後に「リペアビリティ」、修理のしやすさもギガキャストの大きな問題。部品が一体化されることで、事故や衝突のたびに対象の車体部品を丸ごと交換するのは、コストが莫大になり、ユーザーにとっては大きな負担。今回の発表では、トヨタ技術陣より、「リペアビリティ」にも一定の目処を付けたと発言があり、具体的には、衝撃を吸収する部分はギガキャストとは別に用意→リヤのバンパー/クラッシュストラクチャーは別体で付く構造にすることでこの問題を解決したようです。(現状のテスラの一体構造部分とほぼ同箇所なので、どこが違ってくるのかはカッパも理解できていません)

トヨタが導入する予定のギガキャスト。設備は他社(おそらくテスラ)と比べて生産性は20%高い」+「ライバルの3分の2程度の大きさに抑えられている」予定。トヨタはこれまでも後追いで他社の良い点を吸収し、自社の技術力で追い抜いていく戦略で成功してきました。ギガキャストも今回の発表通りであれば、大幅なコスト、工数削減となり、車体の作り方を根幹から変える生産技術となりそうです。

ちなみにこの工法「ギガプレス」「ギガキャスト」「メガキャスト」と呼びかたがさまざまでややこしいので、誰かに統一してほしい…

ギガキャストについて、より詳しく知りたい方はこちらの記事をどうぞ。

そして、BEV新プラットフォームの新しいボディでは、センターはバッテリーで、フロントとリヤセクションをギガキャストで3分割する新モジュール構造を採用。電池が搭載されるのはセンター部分のみで、フロント、リヤは影響を受けないので、電池の技術革新、進化を素早く車両に取り込むことができるようになります。

ギガキャスト、そして新モジュールの採用。これらの効果によって、生産の工程を1/2にすることが可能になる見込みです。

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