【スズキ 23年上期決算解説】過去最高更新!右肩上がりの要因はやはり「インド」
自動車メーカー決算解説、今回はスズキ。「下駄」「浜松の中小企業」を自称する大衆車メーカーでありながら、実は日本メーカーの中でもトヨタに次いで、営業利益率の高いスズキ。日本国内の軽自動車市場やインドで高いシェアを保ち、好業績を続けています。
決算に加え、10/24に公表された「インド市場の現状とスズキの展望」も含め、日本メーカー随一の伸びしろを持つスズキの「強さ」を解説します。
1.インド絶好調で過去最高更新!不安なのはパキスタン
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
2023年度上期売上高は前期比15.6%増の2兆2175億円。営業利益も前期比39.6 %増の1643億円、営業利益率8.9%。国内メーカーではトヨタに次ぎ営業利益率は2番目、世界各国の既存自動車メーカーと比較しても高営業利益率となっています。上期として売上高、営業利益、経常利益は過去最高を更新。文句をつけることが難しい好業績となっています。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
四半期ごとの推移をみると、23年3月期に入ってからは四半期1兆円以上の売上高をキープ、営業利益も基本的に右肩上がりで営業利益率は7%以上を維持。そして直近の23年7-9月期は上述の通り、過去最高更新。スズキの業績は成長を続けています。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
営業利益について分析すると、プラス効果が大きいのは台数増減/売り上げ構成変化。販売台数が4輪、2輪共に前年比で増加していること、そしてインドを中心に高収益の車種(SUV)に販売がシフトしていることにより営業利益が伸びています。他社と違う点は原材料価格変動がプラス→原材料価格が下がっている点。日本では仕入先で原材料が値上がりしているものの、インドでは貴金属、鋼材の値下がり。インドの生産が多いスズキではトータルで見ると原材料は抑えられた結果となっています。一方で労務費(人件費)は賃上げを受けて▲157億円のマイナスに。為替影響で+281億円の追い風もあり、全体で+651億円。他社が外部要因含めた合計での営業利益分析に対し、「外部要因を除いて+335億円」と書ききれる点に現在のスズキの強さを感じます。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
売上高を地域ごとに比較するとその他地域以外はプラス。その中心はやはりインド。マルチスズキとしてインド国内で圧倒的シェア誇るスズキ。やはり業績を決めるはインドでの販売。インドでの営業利益率は10%を超えています。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
決算発表ではマルチスズキ単独での業績も説明。インド国内販売91.8万台、輸出13.3万台。営業利益率は9.4%と前年と比較して+3.3ポイント。半導体供給問題が徐々に解消され、生産が回復する中でスズキの持つ「インドの強さ」が如実に表れた決算になっています。インドにおける「スズキ」=日本における「トヨタ」、自動車業界のTOPに君臨し、他社を寄せ付けない売上と高い営業利益率を保っています。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
インドでの販売増、収益性向上に大きな効果をあげているのは現在売れ筋となっているSUVでのラインナップ強化。韓国メーカーが進出し、SUVを中心にシェアを伸ばしてきましたが、昨年よりスズキも対抗するSUVを本格的に投入することで乗用車全体のシェアを維持(SUVでのシェアは昨年と比べほぼ倍増)。小型車からSUV=高価格帯への移行が進み、売上高増につながっています。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
日本国内も生産が回復し、前期比+10.2%、31.3万台。8月以降、部品供給不足が本格的に解消し、生産もようやく制約がなくなり増産基調。仕様・設備を充実させたモデルチェンジ時に原材料価格高騰を踏まえた新車価格の値上げを実施→その分売上も増加。「庶民の下駄」を自称するスズキでも高価格帯へのシフト、新車価格全体の底上げが進んでいます。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
スズキの今回の決算で文句のつけようのない内容ですが、唯一問題があるとすれば、「パキスタンでの生産/販売、落ち込み」。前期5.8万台→今期1.8万台と大幅な減少。パキスタンでは貿易収支の改善のため、2022年5月より自動車(部品を含む)輸入禁止。結果、スズキは販売/生産ができなくなり、台数は大きく落ち込んでいます。23年7月に輸入禁止は解除され生産は回復しつつあるものの、外貨の準備高は低い水準であり、以前の様に自動車部品を輸入し、ノックダウンで生産するのが難しい状況は続く見込みです。
なお、国内他社が中国でのNEVシフト加速による影響を大きく受ける中で、中国での販売がほとんどないスズキは業績への影響が極めて軽微。これから成長するインド(BEVシフトは政府が方針として掲げるものの、今のところは明確にはなっておらず、遅れ気味で他社進出も少ない)での高いシェアを持つスズキの経営は他社と比較しても盤石の安定性が感じられます(インド内で地場メーカーや韓国メーカーとのシェア争いは激化していますが)。
出典:スズキ 2024年3月期[2023年4月~2024年3月]第2四半期決算情報 2024年3月期第2四半期決算説明会
そしてスズキの強みは自動車以外の事業でも利益が上がっている点。マリンは前期比では営業利益が下がったものの、営業利益率は23.8%。堅調な二輪と合わせ、多角化した事業はスズキの強みの1つです。
隙のない好決算。他社と比べても一線を画した、トヨタにも劣らないスズキの強さが現れた好業績になっています。