【徹底解説:自動車メーカー決算 マツダ】弾込め完了!ラージで描くブランド価値向上への道
ご安全に。
マリオブラザーズの映画がめっちゃ面白かった、カッパッパです。好きなシーンはクッパのピアノ。あの指なのに上手すぎやろ。
中期経営計画としてブランド力向上を掲げ、魂動デザインやスカイアクティブエンジンなど商品力の高いクルマを市場に投入、そしてついに待望のラージ製品群を販売開始したマツダ。CX-60に続いてCX-90も発表。果たしてブランド戦略は上手くいっているのか。前回の決算説明資料から追加され「チェックマーク」に注目し、それぞれのスライドで言いたいことを読み取りながら、どこより詳しく解説します。
1.売上は過去最高!増収増益!(ただし中国はあかん)
2023年3月期 通期の売上高は前年同期(3兆1203億4900万円)から22.6%増となる3兆8267億5200万円、営業利益は前年同期(1042億2700万円)から36.2%増となる1419億6900万円、営業利益率は3.7%、当期純利益は前年同期(815億5700万円)から75.1%増となる1428億1400万円。グローバル販売台数は111万台(前年同期比14万1000台減)で、連結出荷台数は105万9000台(同6万8000台増)となった。
2023年3月期は売上高、3兆8268億円(前期比+7065億円)、営業利益1420億円(前期比+378億円)と増収増益。営業利益率は3.7%、前年同期比+0.4ポイント。売上高は過去最高を更新と、好業績となっています。
生産台数は前年同期比+11.1万台の113.5万台。22年は4-5月での上海ロックダウンに起因する部品不足により生産を落としましたが、6月以降は生産挽回し、+11%に。ただし販売台数は111万台で前期比▲1.4万台。前期が在庫を消化して、販売台数を増やしたのに対し、今期は生産>販売で在庫を積み増す結果になっています。
販売を地域別にみると、前期比でプラスなのは日本のみ。他地域が前年比マイナスとなる中、特に落ち込みが激しいのが中国。前年比▲50%、一年で8.6万台も販売減となりました。
中国以外を除けば、22年度下期からは前年比増。主要市場である米国の在庫の積み上げも進み、販売状況が改善されている…のですが、中国での販売不振は非常に大きい。
特に23年に入ってからの中国市場の急激な落ち込みは予想を超えており、前回2月公表時点の売上高、販売台数の差異は中国市場要因によるものです。日本メーカーはBEV投入が遅れ、特にマツダは内燃機関車が中心かつ、中国ではモデル末期。しかも価格競争が激化。前回の決算発表時では
「確かに中国市場では今期の販売目標で下方修正を続けております。期初から上海のロックダウン以降、非常にモメンタムが落ちておりまして、需要の動向としては、総需要では昨年並みになっているのですが、中身の部分で内燃機関の車両が減少し、『新エネルギー車』と呼ばれているEVやプラグインハイブリッド、レンジエクステンダーモデルなどの需要が対前年比で7割ほどと急上昇しており、急激に電動化シフトが起きている状況です」
という説明があり、この中国市場での販売不振がマツダの喫緊の課題となっています。
また北米は販売台数が最も多く、高価格/利益の販売が多いマツダの主要市場。前年比ではマイナスになっているものの、22年10-12月期ではフリートを除いた販売台数が過去最高を記録と好調。下期になってからは前期比プラス。アラバマ新工場も稼働しているだけに北米でどれだけ売り上げられるかが、マツダの業績のカギです。
営業利益の増減要因を見ると、出荷台数増、構成変化により1034億円のプラス。売上高を出荷台数で割った「台あたり売上高」は約360万円となり、前年同期比+50万円。高価格帯へのいシフトの効果が出ています。原材料高騰▲1735億円がありながらもコスト改善約+415億円、為替差で+1192億円でほぼ相殺。ただし固定費が▲439億円増加。直近ラージ商品群を出した分の償却費が増えており、今後足を引っ張らないかが少し心配…トータルでは約400億円のプラスに。
為替により助けられた面も大きいですが、全体としては売上高、営業利益で前期比でプラスとなっており、好決算だと言えるでしょう。
2.ラージで本格的に攻める2023年度
今期2024年3月期では売上高4兆5000億円(前期比+6732億円)、営業利益1800億円(前期比+380億円)、営業利益率4.0%(前期比+0.3pt)を計画。増収増益、売上高は過去最高を更新した前期よりも13%増と高い目標を掲げています。この10年間、魂動デザインやスカイアクティブ、ラージ商品群などでブランド価値を高めてきたマツダ。ラージ商品群が本格的に出揃う今期はこれまでの集大成。決算会見にて次期社長毛籠氏の発言にあるように「これまで行なってきた投資と積み重ねてきた資産を活用して、成長軌道に乗せていく重要な1年」となりそうです。
今期の販売台数見通しは130万台(前期比+19万台、+17%)と大幅に増える計画。半導体供給不足の緩和により部品供給ネックでの減産は前期と比べれば少なくなる見込み。全地域で前期比プラスになっていますがやはり注目すべきは前期大きく販売が落ち込んだ中国と稼ぎ頭である北米。
中国では新車種「CX-50」の現地生産を開始し、通年販売に入ることで販売を回復、前期比プラス4.1万台12.5万台を設定。北米では北米市場新たに投入されたラージ商品群「CX-90」及び今後投入される「CX-80」「CX-70」が販売を底上げ、加えて「CX-50 」を生産しているアラバマ工場が2直化することで49.6万台(前期比+9.0万台、+22%)の目標を掲げています。足元の販売状況を見ても、どちらも非常に高い目標となっており、このハードルを越えて過去最高の売上高を更新できるのか。マツダがこれまで積み上げてきたブランド価値、ラージ商品群での商品力が試される1年になりそうです。
また営業利益の変動要因で見ると為替で△の519億円となっています。想定レートは1$=128円。現在が1$=134円なので、このまま円安が続けば業績が上振れする可能性が高くなっています。売上高における輸出(特に北米向け)が高いマツダにとって円安は大きな追い風。今後の為替動向もマツダの業績に大きな影響を与えていくでしょう。(固定費他に「賃上げなどの人への投資」が入っているのも良いですね)
3.5年で大きく変わったマツダのブランド価値
今回の決算会見では2018年6月から社長に就任して5年間にわたりマツダを率いてきた丸本明氏から後任の毛籠勝弘氏に社長の座を譲ることを受け、これまでの5年間をふり返り、取り組みの総括の説明がありました。
コロナ禍前の2019年3月期にはグローバル販売台数156万台でしたが、前期2023年3月期111万台へ減少。シェアを落とす一方で高価格帯への販売移行を進め、台当たりの売上高は約90万円以上向上し、売上高は過去最高を記録。営業利益率も1.4pt改善しました。コロナ禍では赤字になることもありましたが、その中でもブランド価値を重視し、台数よりも高ブランド化を進め、少ない販売台数でも利益が出る=体質が強化されていることは間違いありません。
直近では原材料/物流費の高騰が大きくコストUPとなる中で、単価改善、インセンティブの抑制、コスト改善を進めることで減産、コスト上昇を相殺し、為替の追い風を受けたこともあり、営業利益は大きく改善。損益分岐点台数100万台以下の目標を、2022年3月期に前倒しで達成しました。
特に力を入れていたのはマツダの稼ぎ頭である北米でのブランド価値の向上。1台当たりの取引価格は$7000(約94万円)上昇し、ブランド価値を測る目安である残価率は他社と比較しても高く、高順位をキープ。顧客満足度も15位→3位に向上しました。
新規車種も相次いて投入し、直列6気筒FRの「ラージ商品群」や発電用ロータリーエンジンを搭載する「MX-30 e-SKYACTIV R-EV」を販売するなど、他社とは異なるブランド戦略を展開してきました。今回、営業利益3.7%とこれまでのマツダで中では高営業利益率を達成できたのはこのブランド戦略が成功したためであると言えます。
ラージ商品群などの弾込めが完了し、これからはその資産を活かし、稼ぐフェーズ。内燃機関での高い技術力を活かした商品群で電動化に向けた資金確保及び、シェアをどう確保していくか。
各社がEVシフトを進める中で、開発してきた内燃機関車で高級ブランド化、利益を生み出す戦略をとるマツダ。北米の急速に進むEVシフト、景気後退懸念、金利上昇と先行き不透明な中で23年、24年と販売を伸ばすことが出来るのか。
日産「軽EVが4ヶ月半で受注3万3000台超えました!」
ホンダ「ソニーと新会社立ち上げてEV作ります」
マツダ「直6ディーゼルFR!レンジエクステンダーでロータリーエンジン!340馬力3.3リッター直列6気筒ガソリンターボエンジン!」
いわば一歩間違えば赤字転落もあり得る中、マツダの販売動向に注目です。(加えると落ち込みすぎた中国をどう挽回していくのかとアラバマ工場がいつから2直になるのかもポイントです。)
おまけ:SUBARUの解説でも書いたのですが、アメリカではCAFE規制、燃費規制が強化され、26年からは企業別平均燃費基準20.9km/lというかなり高いハードルが。マツダは流石に厳しいのではないかと思っていたのですが、直近のCX-60ディーゼルハイブリッドで実燃費20km/lあるらしいのでHEVとPHEVにいくつかBEVを出せば達成できるかもしれません。CX-60、いろいろ言われてはいるのですが、燃費に関してはあの車体にしては破格。本当にすごい…
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