【八方塞がりで打つ手なし?!】欧州自動車メーカーが窮地に陥った5つの要因
今、かつてないほど欧州自動車メーカーが窮地に追い込まれています。世界自動車販売台数2位のVWは操業上、初となるドイツ工場の閉鎖を検討。推進してきたBEVの投入時期を見直し、投資も後ろ倒しへ。Volvoは2030年BEV100%専業の目標を撤回しました。
ここに来て、始まった欧州自動車メーカーの構造改革、戦略の見直し。今後生き残ることができるのかの瀬戸際に追い込まれた要因は、欧州自動車メーカーを取り巻く環境の変化があります。なぜここまで追い詰められてしまったのか。その5つの要因を詳細に解説します。
要因1:一向に回復しない欧州自動車市場
ACEAデータより作者作成
欧州自動車メーカーが伸び悩んでいる大きな要因の1つが足元の欧州市場で需要が低調であることです。2019年では1300万台を超えていた販売台数は2020年コロナ禍以降、1000万台レベルにまで低下。2023年の販売台数は1054万台。2024年に入ってからは回復はしつつあるものの(~7月で23年比+4%)、2019年レベルには達しておらず、1100万台レベルの見込みです。自動車普及率の高い欧州では販売は今後も横ばい、縮小傾向にあり、足元の景気、インフラ、金利上昇を踏まえると、短期的に大きく改善することは難しいでしょう。
欧州自動車メーカーは自地域内での販売比率が高く、2023年、VWでは33%、メルセデスは39%、BMWは34%を欧州内で販売しています。販売が落ち込めば、その分売り上げ、生産も落ち込む。回復、成長が望めない足元の欧州市場低迷が業績に大きな影響を与えています。
要因2:中国自動車市場での地場メーカーの台頭
欧州メーカーが2010年代、台数、売上を伸ばすことができたのは中国自動車市場の急成長によるものでした。世界最大の自動車市場、中国の販売台数は単体で3000万台(2023年 乗用車/商用車)。グローバルで1/3以上を占める巨大市場です。
欧州、特にドイツメーカーは中国で合弁会社を設立し、ブランドイメージ、品質で高いシェアを獲得してきました。2020年のシェアは25%。中国だけで600万台を超える台数を販売。トップのVWは欧州よりも中国の販売台数が多くなっています。(2023年グローバル販売比率40%)
ただ、中国ではBYDを筆頭とする地場メーカーが近年躍進し、一気にシェアを拡大。日本メーカーの苦境も伝えられていますが、欧州メーカーも同様にシェアは急落しています。2023年ではドイツ系のシェアは20%と20年比で▲5%。販売台数規模が大きいため、5%でも150万台販売が減った計算になります。
直近の24年7月ではシェアはさらに縮小し、17.6%に。地場メーカーの勢いは衰えることなく、いかにシェアを落とさないかの戦いになっています。また中国メーカーの価格攻勢は凄まじく、欧州メーカーも販売台数維持のために値下げを実施。売っても利益が上がりにくい市場になり、採算性が悪化しています。中国企業と組む、開発センターを中国内に設けるなど施策は打ち出しているものの、現状を大きく変えるだけのインパクトはありません。過剰になった生産設備を踏まえると、中国市場での構造改革、戦略見直しが急務となっています。
要因3:勢い凄まじい海外メーカーの欧州攻勢
欧州市場内でも海外メーカーのシェア拡大が進んでいます。この数年で大きくシェアを伸ばしたのは、日本「トヨタ」、韓国「現代」です。電動化技術に優れた、競争力の高い車種が次々に投入され、シェアが拡大。トヨタのシェアは2019年4.9%→2023年6.9%、現代のシェアは2019年6.5%→2024年8.4%に。 そしてEVでは最大手テスラが参入し、市場を席巻。モデルYは欧州で最も売れたクルマとなり、2023年ではシェアは2.6%にまで達しています。この3社でシェア6%強、EU全体で年間1000万台とすると60万台の販売を奪われた計算になります。
これらの攻勢を受けて、欧州自動車メーカーは自地域内でも存在感が低下。市場縮小と合わせて、欧州内で販売台数はコロナ禍以前よりも低調で挽回の兆しは見えていません。