【日産24年3Q決算解説】25年は試練の年。見えてきた『ターンアラウンド』の全貌と立ちはだかる課題

日本自動車メーカー24年3Q決算解説、今回は日産。前期までは好調だった業績ですが、今期に入ってからは大幅に悪化。ホンダとの統合協議→決裂する中で、構造改革「ターンアラウンド」をやり遂げ、業績を回復させられるのか。その詳細を解説します。
カッパッパ 2025.02.23
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2010年度の拡大路線で固定費増、ブランド力が低下し、19年度、20年度は赤字に陥った日産自動車。コロナ禍、半導体不足を経て、採算性を大きく改善させ、23年度は過去最高の売上高を更新、営業利益も4.5%まで回復させました。

しかし、24年度に入り状況は一転、採算性は一気に悪化し、ギリギリ黒字の状況。再び『ターンアラウンド』=構造改革を発表する非常に厳しい業績となっています。こうした現状を打破すべく、ホンダとの統合が協議されましたが、条件が折り合わずに決裂へ。現状日産はどのような状況にあるのか、そして今後「ターンアラウンド」でV字回復できるのか、その課題はなんなのかを詳細に解説します。

1.減収減益、販売台数減、黒字ギリギリの厳しい業績

日産自動車、24年3Qは減収減益。売上高は9兆1432億円(前年比▲0.3)と微減一方で、営業利益は640億円(前年比▲86.6%)、営業利益率0.7%(前期比▲4.5ポイント)。業績は前期と比べ、大幅悪化。ギリギリ黒字の非常に厳しい内容となりました。

24年3Qまでのグローバル販売台数は前年同期比▲1.8%の239.7万台。特に中国で台数を減らしており、中国での地場メーカーの躍進が日産の業績に大きな影響を与えています。

また前回は構造改革費用が算出中であったために、通期見通しでの純利益を「TBD」=未定としていましたが、1000億円の費用を計上し、通期では▲800億円の赤字になる見通しが発表されました。

台数は大きく減っていないにも関わらず、なぜ営業利益が大幅減となったのか。その理由は「販売パフォーマンス」▲2143億円と大半を占めています。台数/構成変化=低単価車種/グレードの販売増、販売費用=販売奨励金増/値下げが減益の主要因。円安による為替要因で+314億円があるものの、インフレ影響による原価高騰、研究開発費増も大きく、焼け石に水の状況。コストが上がる中で価格転嫁ができず、在庫消化のために販売奨励金を拠出しなければいけない→結果、24年では採算性が大幅に悪化。19年度、20年度の赤字から脱して以降、業績を回復させてきましたが、24年に入って大きく潮目が変わり、再び低採算、営業利益ベースで赤字に近づきつつあります。

2.中国での苦戦と「稼ぎ頭」でなくなった北米市場

日産自動車決算資料より作成

日産自動車決算資料より作成

日産は23年3Q以降業績が悪化し、右肩下がり。四半期単位での業績推移をみると、24年に入ってからは苦境は鮮明で「何とか黒字を維持」するレベルまで業績は悪化。24年度業績では、自動車事業単体では赤字となっており、採算性の高い販売金融事業(自動車ローンなど)で利益を計上することで、黒字を維持しています。20年度までの赤字だった時期とほぼ同様のところまで経営状況は悪化しています。

日産自動車決算資料より作成

日産自動車決算資料より作成

地域ごとの動向を見ると、24年は北米が著しく悪化していることが分かります。23年度までは全地域の中で最も利益を上げ、営業利益の半数以上を占めていた北米市場。ただし、半導体不足制約がなくなり在庫が回復する中で競争が激化。労務費UPなどのコスト増もあり、地域別で赤字に転落。日本は営業利益で見た場合、為替益があり前期比増となっていますが、北米のマイナスを全くカバーしきれていません。

他日本自動車メーカーが北米で利益を積み上げる中で、なぜ日産はこれほど悪化してしまったのか。その要因は販売を促進するために多額の「販売奨励金(インセンティブ)」を拠出したためです。

アメリカではディーラーが在庫を持って販売するビジネスモデルが主流。自動車市場全体で23年下期から販売店在庫が積み上がり、在庫日数が高水準に達しました。こうした環境の中で日産はモデルイヤーの切り替え時に在庫を適切にコントロールすることができず、供給過剰に。結果、新車種が販売開始されたのにも関わらず、モデルチェンジ前の車両在庫をディーラーが多く抱えている状況に陥りました。日産は旧モデル、販売促進のために多額の「販売奨励金(インセンティブ)」支給=実質的な値下げを敢行販売費用が増加=1台当たりの利益が大きく減少し、今回赤字にまで業績は悪化したのです。

加えて、北米ではハイブリッド需要が高まっています。インセンティブを抑えて販売できることに加え、価格も純内燃機関車よりも高いため、日本メーカーの「稼ぎ頭」になっています(トヨタ、ホンダはハイブリッドで台数、利益を稼ぎだしている)。しかし、日産はアメリカではハイブリッド車種を投入できていません。結果、純内燃機関車とBEVで北米市場を戦うこととなり、競争が激化する中で、ブランドとしての競争力が低価。台数が伸びない+多額のインセンティブを拠出しないと売れない悪循環に加え、インフレによる製造コスト増も相まって北米が「儲からない」市場になってしまいました。また、現地生産化を進めていたために、円安での為替益も他社と比較すると少なく、「日産一人負け」ともいえる状況まで追い込まれています。(スバル、マツダは輸出割合が大きく、為替益の恩恵大)

ただ、販売奨励金/価格改定は、24年3Qは改善傾向にあり、販売>生産なっていることから在庫調整も進んでいます。大きく落ち込んでいる北米市場ですが、24年上期が大きな谷となり、今後は改善が進んでいきそうです。

日産自動車決算資料より作成

日産自動車決算資料より作成

またもう一つの大きな問題は回復の兆しの見えてこない中国事業です。ルノー/日産/三菱連合の中で中国事業は日産の担当となっていますが、この数年で日産は大きくシェア、販売台数を落としています。直近の24年10-12月では15.7万台と前年同期比▲16.2%。この5年で最低レベルの台数となり、3年前の21年と比較すると半減。中国新興メーカーの台頭による影響を大きく受け、販売台数低下と共に価格競争も激化し、採算性も悪化しています。これまで日産の決算資料は「中国事業を除く」と注がついて部分が非常に多く、「中国事業は問題である」という前提に立って作られていることが他社とは大きく異なっています。24年上期には常州工場を閉鎖し、生産能力を1割削減したものの、依然生産能力は過剰となっており、更なる構造改革+巻き返しのためには、競争力のある新車種の投入が必要となっています。

3.すぐに倒産しないけれども楽観視もできない

業績悪化を受けて、報道各社やSNSで日産へ多くの批判が寄せられていますが、すぐに倒産するほど経営状況は悪化していません。赤字に直結する手元のキャッシュ(現金)相当は24年上期終了時点で1.4兆円。売上と比較して少なくはあるものの、すぐに枯渇する財政状況ではありません。

ただ楽観視できる状況とも言えません。24年3月時点の製品在庫1兆2790億円に対し、24年12月末時点では1兆3086億円と増加。グローバル販売台数が24年1-3月が100万台、24年10-12月が80万台、在庫水準を一定に保つことを考えれば、本来は製品在庫も20%減らなくてはいけません。製品在庫金額が増えている=車の販売が滞っている厳しい現状が見えてきます。営業キャッシュフローも23年第3四半期累計では1819億円のプラスだったのに対し、24年第3四半期累計では▲2380億円。現金が減っていることは紛れもない事実です。また販売台数が減る中で、広告宣伝費は前期2313億円⇒2618億円と増加。台数が落ち込む中で、販売費は増え、収益が落ちる要因となっています。

また日産はグローバル販売台数が350万台ほどにまで落ち込む見込みですが、これは20年前、2004年の販売台数とほぼ同水準。2004年かのゴーン氏が辣腕を振るい、構造改革を推し進め、結果が出た時期にあたり、営業利益率は10%。その当時と比較すると売上高(通期)は8.5兆円⇒12.5兆円、約1.5倍になっていますが、営業利益は8612億円⇒1200億円と85%減。細かく分析すると、有形固定資産=(工場や設備、土地)が2004年では3.8兆円に対し24年12月末時点で4.8兆円と1兆円増加。固定費が増加しており、資産を活用して効率的に稼げない(使われていない資産が多い)ことが、採算性が上がらない大きな要因となっています。

日産は直近すぐに倒産に至るほど追い詰められてはいません。ただ、財政状況は間違いなく悪化しており、今後抜本的な改革を進めていかなくは、「Xデー」を迎える可能性もあり得る業績となっています。

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