【営業利益率19.2%】テスラが儲かる7つの理由
ご安全に!
22年1Q決算が絶好調だったテスラ。自動車事業での営業利益率19.2%ってもはや完成車メーカーの営業利益率じゃない。EVは電池のコストが高く、内燃機関車と比較すると利益が出にくい構造。ただ、テスラはEV専業でありながら、他社の数倍の営業利益率を達成しています。なぜテスラはこんなに稼ぐことが出来ているのか。分析してわかった7つの理由。その詳細を解説します。
どこよりも詳しく、ここでしか書けない解説。自動車業界の方、テスラファンのみならず、クルマに少しでも関心のある方、必見です。
いやいや、本当にテスラはすごい。
1.モビコラム
モビコラムでは、カッパッパが自動車業界最新トレンドを独自の視点と切り口で語るコラムです。かなり力を入れた内容で仕事/投資に役立つこと間違いなし!
0.製造業で儲けるには?
製造業で高い利益を上げるために必要なことはなんでしょうか?
答えはいたってシンプル。
① 安く作る
② 高く売る
製造業は「形あるものを作って(加工して)売る」ビジネスモデル。この二つが出来れば、儲けることが出来るのです。ちなみに「たくさん売る」も売り上げ高をあげるために重要なのですが、今回はテスラの利益「率」に注目するため、今回の記事では割愛します。
テスラは現在「安く作る」「高く売る」この2つが両輪でうまく回っているために、19.2%の圧倒的営業利益率を成し遂げています。
「安く作る」「高く売る」をどのように行っているのか。具体的にその中身を解説します。
1.安く作る
1-1.生産能力以上、100%超える稼働率
テスラ 2022年1Q決算資料より
まず注目したいのは100%を超える工場稼働率。テスラの22年1Qの生産数量は30万5407台。しかし、決算資料によれば現在の生産能力はオースティン、上海合わせ年間105万台=26万2500台のはず…一般的に生産能力は工場の残業無での定時時間(日本であれば7.75時間×2直=15.5時間)であらわされることが多いので、残業及び土日の出勤をして生産していることになります。(特に上海工場で土日フル稼働で生産しているとの噂)
工場稼働率は116%。ではなぜ工場稼働率が上がると安く作ることが出来るのか。それは1台あたりの固定費を減らすことが出来るためです。自動車メーカーは量産にあたり、莫大な初期投資が必要。生産が開始されると、その償却費が毎月固定でかかります。
例えば10億円/月の償却費のかかる工場があり、生産能力は1万台/月だとしましょう。稼働率100%で1万台生産の時、固定費=10万円/1台。稼働率が80%で8千台生産の時は、固定費=12.5万円/月。稼働率が20%変わると、2.5万円もコストは変わるのです。
自動車メーカーが業績悪化するパターンは「①生産拡大路線⇒②工場建設など多額の投資⇒➂計画通りに売れない⇒④生産能力が余剰になる⇒⑤1台当たりの固定費が上がる」が鉄板。直近ではGM、日産やホンダも構造改革で工場集約を進め、余剰生産能力を減らし、稼働率を向上させようとしています。
自動車メーカーの業績のカギを握る工場稼働率。テスラは100%を超える非常に高い稼働率を維持しているために、1台当たりの固定費を減らし「安く作る」ことが出来るのです。
1-2.次々と導入される最新生産技術で下がる製造コスト
新工場を次々と立ち上げ、そこに導入される最新生産技術もコスト削減の大きな理由の1つ。決算資料でも説明されていたメガキャスティングによる車体製造の単純化(溶接個所の大幅削減)は必要設備を減らし、生産効率を向上させ、コスト削減に大きく寄与します。
既存メーカーであれば、すでに製造ラインがあり、スペース/改造期間の確保、償却費などの要因により先進的な最新技術を導入することは容易ではありません。ただ、テスラは工場/ラインを次々と新設しており、新しい技術を取り入れることが出来ます。
4月に立ち上がったギガテキサスでは自動車の組付けがAGV(無人搬送車)によっておこなれています。従来ではベルトコンベヤー式であったため、異常があった際はライン全体を止める必要がありましたが、AGVであれば異常のあった車両のみをラインから外せば生産を続けることが出来ます。(従来メーカーもやりたいが、既存ラインの制約によりなかなかできない)
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00119/041400089/?P=5
テスラは新工場ライン/設備を次々と立ち上げ、最新の製造技術を取り入れることで、1台当たりの製造コストを下げる=安く作ることが出来るのです。(おそらくオースティンよりも上海の方が製造コストは低く、品質も高いはず)
1-3.選択肢は少ない方が良い? 絞られた販売モデル数
販売モデル数が少ないことも「安く作る」ことに大きく貢献しています。現在のテスラ販売車種数は「Model S/X/3/Y」のわずか4モデルのみ。各モデルの中でもハード部分でのオプションの設定は少なく、主にバッテリー容量。他社と比較すると、テスラ車のなかでの「選択肢」は少ないです。
販売モデル少ない=使用部品の共通化、開発費削減(多くのモデルに開発費を分散する必要がない)が可能となり、1台当たりにかかるコストを下げることが出来ます。自動車メーカー各社がプラットフォーム共通化を急いでいますが、テスラはそもそもモデル数が少ないために共通化する必要もありません(しかもModel 3/Yは共通部品が多い)
消費者の要求に細かくこたえるため、様々な車種、オプションを準備することは必要ですが、細分化されるほど、開発や製造のコストが大きくなります。
製造技術と同様、「シンプルなのは良いことだ」。販売モデルを絞ることはテスラが安く作れる要因の1つなのです。
1-4.社長自身が広告塔 販売広告費「ゼロ」
自動車業界は非常に広告費にお金を使う業界。トヨタは日本で1番販売広告費を使う企業(現在は非公開ですが)で、日本完成車メーカーは5-7万円/台の広告費がかかっているとされています。
テスラは広告を一切打ちません。強いて言えばユーザー間の紹介はありますが、企業としてネットやTVに広告を出さない=販売広告費用は「ゼロ」。テスラCEOのイーロンマスク氏が主にtwitterを通じて発信を行うため、広告がなくてもテスラの宣伝は十分。テスラのニュースをネットで見ない日の方が少なく、認知度の非常に高い。広告費が車両値段にコストとしてかかることがなく、安く作ることが出来るのです。
22年1Qの決算資料より「広告を出さなくてもスーパーボール後に受注が大幅に伸びました」グラフ。唐突に出てきて解説一切ない。テスラが広告費なしでも販売を伸ばせる自信がよく表れている。
2.高く売る
2-1.熱狂的なファンを多数生み出す高いブランド力
テスラの一番の強みはテスラに魅せられたファンなのかもしれません。このファンの力が非常によくわかるのがギガテキサス新工場のイベントをリポートしたこちらの記事。
新工場が立ち上がるイベントに各地からファンが集結。
「テスラ」をハブとして様々な人が初対面でもつながっていく様子は、初期のアップルを彷彿とさせます。アメリカのみならず、日本でも熱狂的はファンは多数。Twitterでもその熱さを感じることが出来ます。
EVや先進的な運転支援機能といった自動車の魅力のみならず、企業理念やイーロンマスク氏の人柄/才能が作り上げた「テスラ」ブランドに魅せられたファンは多少値段が張ったとしても購入に至ります。
オンラインショップで売られているテスラグッズ(高い) ちなみにTシャツは4000円程度でお買い得
「テスラ」という高いブランド力は「高く売れる」一番の要因です。
2-2.いつでも値段変更できる ディーラーなしの直販モデル
テスラほど価格を短期間で変更させるメーカーはありません。直近では資源高を理由に2月から100万以上の値上げを実施しています。
https://twitter.com/Membo1003/status/1517480745878835202/photo/1
他、既存メーカーも海外メーカーを中心に値上げを打ち出していますが、ここまで頻繁に変更させることはできません。既存メーカーは基本、ディーラーを介しての販売となっており、メーカーの一存で変えることはできないからです。
その点、テスラはネットでの直販。自分たちで価格を容易に変更させることが出来ます。原材料高騰によりコストが上がれば、即座に販売価格に上乗せ=利益を維持。実際、現在の原材料高騰も本当に製造コストが上がっているかはわからない(決算資料を見る限り1台当たりのコストはそれほど変動していない)のですが、高くても売れるのであれば、値段は上げるのが儲けるためには正しい戦略。またディーラーでのマージンが発生しないため、他社よりも販売コストは著しく低くなっています。
自分たちで好きな時に値段を変えられる直販のビジネスモデル。テスラが作り上げたビジネスモデルは、直近の状況に合わせて、利益を維持し「高く売る」ことを可能にしているのです。
2-3.原価ゼロ 売れた分だけ丸儲け「排出権取引」
テスラが売っているのはクルマだけではありません。EVを販売して得た「排出権」(クレジット)を他自動車メーカーに販売して利益を得ています。
https://ieei.or.jp/2016/09/special201608008/?type=print
現在、世界各地で環境規制が行われ、一定の基準をクリアできないと罰金が課せられます。その罰金を回避するために購入するのが「排出権」。テスラはEV専業のため、売った台数分、他社に販売できるクレジットを獲得でき、多額の利益を得ています。(2019年ころまでは製造でマイナスだったものの、クレジットで黒字にしていたほど)
22年1Q決算ではその額、6億7900万ドル(871億円)。営業利益19.2%のうち3.6%稼いでいる計算。割合として少なく見えるかもしれませんが、既存メーカーの営業利益率が5%超えれば良いという事実を考えると、クレジットが業績上きわめて大きな意味を占めていることがわかるはず。
クレジットは原価がかからず、他社に販売した分だけ丸儲け。テスラは販売台数も増えており、その分獲得できるクレジットも増加。今後、環境規制が強まる中で、テスラはより多くの「排出権」売ることで利益を上げていくでしょう。
テスラがなぜこれほど儲かるのか。印象論や過去実績で語られがちです。
「サブスクで儲けている」←「実は加入はそれほど多くなく、利益への貢献度は大きくない」
「製造は赤字だが、排出権取引で黒字」←「この1年は製造単体でも黒字化」
今圧倒的利益率なのは「安く作る/高く売る」、これまで解説した「7つの理由」があるからなのです。
そしてテスラにはまだまだポテンシャルがあります。22年4月に立ち上がったギガベルリン/ギガテキサスの稼働により、生産数は増加。また最新設備が導入されていることで、量産フル体制になれば1台当たりの製造コストはより下がっていくでしょう。また、新しいビジネスとして自動車保険に参入。コネクテッド機能はドライバーの安全運転レベルを評価することが出来るため、保険との相性は抜群。自動車保険はサービス事業であるため、利益率も高く、今後収益の柱として期待できます。
このまま、販売台数が伸び、現在の利益率が維持できれば、2-3年後には純利益額も世界1位になる可能性もあるテスラ。EVや自動運転といったクルマ自体の魅力もさることながら、最新製造技術や既存メーカーが出来ないビジネスモデルも高利益の一要因。
正直に言えば、ここまでくると下がる要因もなかなか見つからない(競合他社がEV販売を開始するので相対的にEV=テスラの図式が弱くなるくらい)
いやいや、本当にテスラはすごい。想像を超えていく成長を続けるテスラ。果たして今後の業績はどうなっていくのか。まだまだ目を離すことは出来なさそうです。
【今週の一言】
自分で言うのもなんですが、ここまで現在のテスラの儲け方を詳細に分析した記事は他にはないだろうなと…今回の記事はなかなか自信作なので、伸びてほしいなぁ(noteにも転載しようかな)
・CASEなどの業界トレンドを詳細に解説
・各自動車メーカーの戦略や決算分析
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